▼212▲ やんちゃ坊主に振り回される大人の気苦労
その後、笑いの沸点が極度に下がる卑怯な状況を悪用したエイジン先生は、この二人の黒ローブ少女を呼吸困難になるまで笑わせる事に成功する。そのけたたましい笑い声はしょうもないネタの数々と共に録音されて後々まで当局の資料としてしっかり残されるであろう事を思うと、この真面目な少女達に同情の念を禁じえない。
それはさておき、魔法捜査局本部を出発して約一時間後、一行を乗せたヘリは山奥に突如としてそびえ立つ、古びてはいるが頑丈そうな石造りの城の前に到着した。
「ここはもしや、ガード家の別荘ではないですか?」
ヘリを降りたアランが驚愕の面持ちで黒ローブ少女達に尋ねる。
「質問にはお答え出来ません。どうぞ中へ」
もはや監視役のプライドを完膚無きまでに崩されたものの、最後まで監視対象と馴れ合う事なく任務を遂行しようとするけなげな黒ローブ少女達。
少女達によってエイジンとアランは書斎と思しき場所へと案内され、古書が壁一面を埋め尽くす部屋の中、どっしりとした大きな木の机を前にして座る黒ローブ姿の若い女性と対面させられた。
「エイジン・フナコシとアラン・ドロップの両名をお連れしました」
真面目な顔で報告する黒ローブ少女。
「御苦労様でした。道中はさぞ呼吸が辛かった事でしょう。ゆっくり休んでください」
どうやらこの書斎の主は全てお見通しの様であり、見透かされた少女達は真面目な顔のまま頬を赤くして部屋を出て行った。
「あの二人を叱らないでやってくれ。全部俺が悪いんだ。ってか、ずっと盗聴してたのか」
エイジンが女に話し掛ける。
「叱らないので安心してください。連行中の会話は時々聞かせて頂きました。お会いするのはこれで二度目ですね、エイジン・フナコシさん」
「てっきり美術館の新米スタッフだとばかり思ってたら、あんた何か凄い魔法使いらしいな」
「お褒めに与り光栄です。そちらの方とは初対面ですね。初めまして、魔法捜査局の特別捜査官、ジュディ・ガードです」
馴れ馴れしい口調で話をしているエイジンをハラハラしながら見守っていたアランに、ジュディが椅子から立ち上がって声を掛けると、アランは緊張した表情になって、
「初めまして、ガル家で使用人として雇われているアラン・ドロップです。私の行った異世界転移魔法に何か不審な点があるという話でしたが……」
と、恐る恐る切り出した。
目の前に魔法界の大物、隣に傍若無人なエイジン先生。
それだけでもかなり辛いものがあるアラン君だった。




