▼209▲ 魔法のロジックの悪用例
「令状をお持ちですか?」
動揺するアランとは対照的に、毅然とした態度で黒ローブ少女達に応対を続けるイングリッド。
「いえ、ありません。お二人には任意でご同行して頂く事になります」
淡々と答える黒ローブ少女。
「令状がないのでしたら、こちらと致しましても」
「行くよ。俺もアラン君も」
イングリッドの毅然とした言葉が終わる前に、エイジン先生が呑気な口調でその努力を台無しにする。
「エイジン先生?」
「何にもやましい事はしてねえからな。さっさと行って済ませて来る」
振り返って「余計な事をするな」という非難の目を向けるイングリッドに対し、ふてぶてしい笑みを浮かべて答えるエイジン。
「ご協力感謝します。ではご一緒に」
黒ローブ少女が同行を促すと、エイジンは懐から、昨日美術館でもらった例の白い名刺大のカードを取り出し、
「これを預かっておいてくれ」
と言って、アランにそれを手渡した。
「私がこのカードを持っていても何の意味もありませんよ。そもそも、これをエイジン先生に供与したジュディ・ガード自体、魔法捜査局の人間なので、今更エイジン先生が持っていても何の意味もありませんが」
カードを受け取ったものの、困惑げな表情をするアラン。
「だが、このカードには『所有者からこのカードを奪う事は出来ない』という強力な精神操作系の魔法が掛けられてるんだろ? つまりこのカードをアラン君に預けている限り、俺とアラン君との意志疎通は誰にも妨げられない訳だ。カードを預けた相手とのコンタクトを禁じる事は、そのまま『所有者からカードを奪う事』に他ならないからな」
エイジンの説明にアランは驚いて、
「確かにその通りです。でもよく気が付きましたね、エイジン先生」
「ロジックの初歩だよ、アラン君。これで事情聴取に際しては共同歩調が取れるぜ。『囚人のジレンマ』にやられる事もない」
そこでエイジンは黒ローブ少女達の方を見て、
「ここまで言ってるのに、あんた達がアラン君からカードを取り上げようとしないのも、俺の説が正しい証拠だな」
とからかう様に言ったが、黒ローブ少女達は取り澄ました顔で、
「特に必要がない限り、個人の持ち物を没収したりはしません。ともかく、ご同行願います」
と、エイジンとアランを急きたてる。
何が何やら分からぬまま不安そうに見守るグレタとイングリッドとアンヌに対し、
「あんた達が不利な状況に陥る様なヘマはしねえから安心しろ。ただ俺の留守中、何も問題を起こさない様に大人しくしてくれさえすればいい」
と言い残して、エイジンはアランと稽古場を後にする。
「でも事態がこじれたら、いい弁護士を手配してくれ」
悪事に関してはやたら知恵が回り、さらに万全の備えも怠らないエイジン先生だった。




