▼20▲ 悪魔の古武術修行
エイジン先生とアランが、七時少し前に稽古場に到着すると、既にジャージ姿のグレタが来ており、同じくジャージ姿のアンヌとストレッチをしている最中であった。
「あら、来たわね。じゃあ、早速修行を始めてもらいましょうか」
グレタはストレッチを中断して、エイジンの方につかつかと歩み寄り、腰に手を当てて偉そうな態度で指示を待った。
「昨日も言ったが、修行はかなり辛いから、やめたくなったら、いつでもやめて構わない」
再度警告するエイジン。
「何があってもやめるつもりはないわ」
ニヤリと笑って、不退転の決意を示すグレタ。
「では、外へ出ろ」
そう言って稽古場の外に出たエイジンは、建物の壁に立てかけてあった長さ八十センチ程のスコップを手に取り、
「アラン、例の場所に案内してくれ」
と言った。
「エイジン先生、グレタお嬢様に、本当にアレをさせるつもりなんですか?」
アランがものすごく心配そうな顔で、エイジンに尋ねる。
「ああ、場合によっては発狂するかもしれないがな」
重々しく答えるエイジン。
そんな二人のやりとりを目の当たりにして、グレタはごくりと唾を呑み、
「い、一体何をさせるつもりなの?」
「臆したか。怖くなったのなら、強制はしない」
「こ、怖くなんかありませんわ!」
強がってはいるものの、内心の不安は隠しきれない様子である。
「ならば、ついて来い」
やがて、エイジン、アラン、グレタ、アンヌの四人は、ガル家の敷地の裏手の外れにある、現在何にも使用されていない更地のある場所までやって来た。
「よし、グレタ、これからここにスコップで穴を掘れ」
そう言って、エイジンはグレタに、スコップと軍手を手渡す。
「は? どの位掘ればよろしいんですの?」
「俺がいい、と言うまでだ」
「何の為に?」
「修行の為だ。嫌ならよせ」
「やりますわ! 掘ればいいんでしょう!」
それからグレタはエイジンに言われた通りに、ずっとその地をスコップで掘り続け、昼までには、人一人入れる程の大きくて深い穴が出来ていた。
「よし、そこまで。これから一時間休憩とする」
エイジンの指示に従い、泥まみれで穴から這い出すグレタ。
「休憩が終わったら、また掘り続けるんですの?」
「いや、午後は今まで掘った穴を埋めてもらう」
エイジンの無慈悲な言葉を聞いて、愕然とするグレタ。今までの苦労は何だったのか。
「これを一週間毎日続けるんだ」
そんなグレタにお構いなしに、平然とした口調で言い渡すエイジン先生。
「グレタお嬢様、心が壊れてしまわないといいのだけれど」
「エイジン先生は、本物の悪魔です」
それを遠巻きに見ていた、アンヌとアランが小さな声で言った。
この修行は危険なので、よい子は決して真似しないでください。




