▼199▲ リスとお嬢様とメイド
その後、残りの展示を見終えたグレタ、エイジン、イングリッドの三人は美術館の外に出て、緑に囲まれた公園内を散歩したり、池を四人乗りのペダル式貸しボートに乗って遊覧したり、広場で大道芸人のパフォーマンスに見入ったりしていたが、
「レストランを予約してある時間まで、まだあるから」
と言うグレタの提案に従い、ベンチに座って少し時間を潰す事にした。
「何か飲み物でも買って来ようか」
「私が買って参ります」
立ち上がろうとするエイジンの肩をつかんでベンチにグイと引き戻し、その反動で立ち上がるイングリッド。
「じゃ、お茶と何か軽い物を三人分お願いね」
「かしこまりました」
グレタの命を受けてイングリッドは売店に向かった。
「この公園にはよく来るのか?」
エイジンが尋ねる。
「小さい頃はよく来たけれど、最近は来てないわ。でも」
グレタは目の前に広がる芝生と木々のある景色を見ながら、
「ここは全然変わってないわね」
と言って微笑んだ。
「小さい頃は、あんたもさぞ可愛いかったんだろうなあ」
「過去形を強調しないで」
「それがどこでどう道を間違えたのか」
「うるさいわね」
隣に座るエイジン先生の足を軽く踏み付けるグレタ。
「たまには、こういう広々とした緑の多い場所に出かけてのんびりするのもいいな」
「ウチの庭園も十分広くて緑が多いから、エイジンをずっと閉じ込めても大丈夫ね」
「鬼かあんた」
「冗談よ。自分の家の庭と公園とでは気分が違うもの」
そんな事を言っている内に、イングリッドが紙袋を手に戻って来る。
「お待たせしました。緑茶と桜餅です。緑茶は熱いので気を付けてください」
「御苦労様」
「ああ、ありがと。しかし、やけに和風なモンが売ってるんだな」
熱い緑茶の入った蓋付きの紙コップと小さな紙袋に入った桜餅を受け取るグレタとエイジン。
「エイジン先生には嫌がらせでヒマワリの種を買って来ようかと思いましたが、あいにく売っていなかったもので」
「俺はハムスターか」
「ヒマワリの種と言えば、来たわよ、ほら」
見ると、グレタの足元に茶色いリスが一匹やって来て、物欲しげに桜餅をロックオンしていた。
「可愛いけど、リスは桜餅食わないだろ」
そう言うエイジンの足元にもリスが一匹現れる。
「糖分が多い人間の食べ物はダメですね。ですがそれ以前に、この公園のリスに餌をやるのは禁止されています」
桜餅を緑茶の入った紙コップでガードしつつ、自分の足元にやって来たリスを威嚇するイングリッド。が、リスは怯まない。
あっと言う間に十匹近いリスが三人の足元に寄って来る。
「油断すると体によじ登って来るから気を付けた方がいいわよ」
足で追い払おうとしつつ、急いで桜餅を食べるグレタ。
「ベンチ伝いに来る輩もいるので、背後も気を付けてください」
周囲にも油断なく目を配るイングリッド。
「見た目は可愛いけれど厄介だな、こいつら。こら、寄りつくんじゃない! いくらおねだりしたって、お前らにやる餌はねえよ。そこらでドングリでも拾って食ってろ。俺はお前らに餌をやる為にここに来たんじゃないんだぞ」
群がるリス達に抗議するエイジン。
気が付くと、なぜか両脇に座っていたグレタとイングリッドが無言になって、エイジンの顔を何か言いたげな目でじっと睨んでいる。
「ん、何だ?」
エイジンの問いに、二人は両側からそれぞれエイジンの足をぎゅっと踏み付ける事で答えた。