▼198▲ 兵隊の位で言うとおにぎりを欲しがる大将
エリザベスと五人の美男従者達を見送った後、グレタ、エイジン、イングリッドは休憩用のベンチに座り、出来るだけその逆ハー御一行様と距離をおくべく、そこでしばし時間を潰す事にした。
「で、私はいつの間に銀行強盗を説得したのかしら、エイジン?」
隣に座るエイジンに身をすり寄せながら、わざとらしい口調で問うグレタ。
「挑発を受け流す意図があるにせよ、アレはない、と思いました。正直言って、聞いている方が恥ずかしくなる小学生レベルの嘘で」
反対側からエイジンを挟む様に身を寄せ、無表情でダメ出しするイングリッド。
「ああ、とっさの事でうまい話が思い付かなかったんだよ。ちなみに二つネタを思い付いていて、もう一つの方は雨にうたれて弱っている捨てられた子犬をグレタ嬢が拾って帰るというストーリーなんだが」
苦しい言い訳をするエイジン。
「そっちの方が、まだマシかもね」
「銀行強盗よりはリアリティーがあります」
「だが、下手にリアリティーがあると、ギャグと分かってもらえない恐れがあるのでボツにした」
「そもそも私をギャグのネタにしないで」
「これはないかな、と思ったら、そのネタを思いとどまるのも勇気です」
「ああいう風にこちらをカッカさせようとして来る相手には、寒いギャグをかまして冷やす位でちょうどいいんだよ」
「ギャグだけじゃなく、言い訳まで寒いのね」
「売れない三流お笑い芸人の特徴です」
「悪かったな。あんたらみたいに素で笑いが取れないもんで」
「誰が天然ボケよ!」
「エイジン先生の減らず口だけは一流と認めて差し上げましょう」
「好きにしてくれ。だが、あの逆ハー女は何だってウチのお嬢様に絡んで来たんだ? 何か恨みを買う様な事でもやったのか?」
「恨みを買うどころか、エリザベスとはほとんど話した事もないわ。たまにパーティーで二言三言、挨拶を交わした程度よ」
グレタが答える。
「じゃあ、単に社交界に悪名轟く『狂犬』をおちょくって遊ぼうって魂胆か」
「エイジンまで私をそんな風に呼ぶのはやめて!」
「お嬢様の代わりに、私がエイジン先生の喉笛に咬み付いておきましょうか?」
そう言って大きく口を開けるイングリッド。
「何気にあんたもグレタ嬢を犬扱いしてないか。それにしても、あのエリザベスってお嬢様は何者だ? 五人の色男を引き連れて闊歩してる姿からして、タダ者じゃなさそうだが」
「エリザベス・テイカーと言えば、社交界でも有名な『恋多き女』よ。いつも複数の男を自分の周りに侍らせて悦に入ってるの」
「エイジン先生の世界の言葉で言うと、さしずめ『オタサーの姫』でしょうか」
「それ違うと思う。オタサーにしては男のレベルが高過ぎる」
「まさか、エイジンを狙って来たのかしら」
「ご安心ください、お嬢様。容姿のレベル的にそれはあり得ません」
「失礼だな君は。もっとも、俺があの美形だらけの一団に加わった場合、アイドルグループのメンバーを引き立てるお笑いヨゴレ芸人ポジションにしかなれない事は、自分でよーく分かってる」
己を知るエイジン。でもあまり面白くなさそうではある。
「エイジンの方が断然いい男じゃない! それにエイジンの真価は見えない所にあるのよ!」
「アレですね。一見うだつのあがらない男が実は有名な貼り絵作家だった的な意味で」
「俺は兵隊の位で言うとおにぎりを欲しがる大将か。しまいにゃ放浪するぞ」
イングリッドの分かりにくいボケを受けて、分かりにくいツッコミを返すエイジン先生。
「絶対逃がさないわよ、エイジン」
二人が何を言ってるのかよく分からなかったが、とりあえずエイジンの腕をつかむグレタ。