▼191▲ 至極無難なデートプランの決め方
やがて、黒地に熱帯植物っぽい緑色の葉を散りばめた模様のタンクトップと短パン姿というラフな格好のグレタが小屋にやって来た。
「トレーニングが終わってから、着替えずにここへ直行したのか」
気を利かせたイングリッドに促されて玄関に出迎えたエイジンが言うと、
「着替えたわよ。でも、今晩も一緒に走るんでしょ」
「一手間省いたのか。合理的だな」
「その後すぐ一緒にお風呂に入るし」
「それは別々に入れ」
最後の言葉を無視して、相手の腕を抱え込む様に抱きつき、にこにこしながらキッチンにエイジンを連行して行くグレタ。
「おかえりなさいませ、グレタお嬢様」
キッチンでイングリッドが恭しく声を掛け、
「住んでないんだから、『おかえりなさいませ』はおかしくないか?」
と、エイジンが軽くツッコミを入れても、
「一体いつから住んでないと錯覚していました?」
と、真顔で問い返す。
「何だと」
「エイジン先生、そこは『なん……だと』と少し間にタメを」
「やかましい」
無駄にエイジンの世界の漫画に詳しいイングリッド。
その日の夕食の鶏の照り焼き丼を皆で美味しく平らげた後、イングリッドがデートの計画について話すと、
「いいわね。エイジンはどこか行きたい所はあるの?」
グレタは目を輝かせて乗り気な様子。
「逆に聞くが、どこかお勧めの場所はあるか?」
「秘宝館」
「却下」
横からしょうもないボケをかますイングリッドに速攻でダメ出しするエイジン。
「そうね、まずはこの世界の文化や歴史に関連がある所はどう?」
グレタがイングリッドの百倍はまともな提案をする。
「いいな。あんたらにとっては常識でも、俺にとっては新鮮だったりするから」
「じゃあ、その方面で検討するわね」
食休みの間、居間のソファにエイジンと並んで座り、テーブルの上に置いたノートパソコンで、行き先候補を喜々として提示するグレタ。
「この美術館はどうかしら。今、ちょうど魔法に関する古美術展をやってるわ」
「魔法か。だったらアラン君もガイドとして一緒に」
「却下よ」
デートの意義を根本から覆そうとするエイジンに速攻でダメ出しするグレタ。
「冗談だ。アラン君を連れて行ったら、アンヌの情緒が不安定になる」
「アラン一辺倒のアンヌにも困ったものね」
くすくすと笑うグレタだが、多分人の事は言えない。