▼187▲ お笑い芸人を殺す魔法の言葉
「で、朝起きたら案の定、みんな浴衣がはだけ放題でな。もっとも俺はあいつらに脱がされた様なもんだが」
「何が悲しくて、わざわざ呼び出されて、男一人女二人で温泉宿ごっこをしてイチャついてた話を聞かされなきゃならないんですか」
翌日の夕方、例の倉庫に呼び出されたアランは、エイジン先生からいつもの「ちょっとHな体験談スペシャル」を聞かされて辟易しつつも、色々想像してしまったらしく、顔が真っ赤になっていた。
「枕にしてはやけに柔らかくて生温かいと思ったら、グレタ嬢の胸が直に俺の顔に」
「すいません、帰らせてもらいます」
「帰る前に聞いておきたいんだが、あの二人を夜中だけ猫に変える魔法とかないのか?」
「メタモルフォーゼ系の魔法は非常に高度なものですから、私の手に負える代物じゃありません。それこそ伝説級の魔法使いじゃないと扱えませんよ」
「駄目か。猫なら一緒の布団で寝ても抵抗ないし、自分から風呂に入りたがる猫なら、とても飼い易いんだが」
「それ以前に『自分に逆らう奴は猫にしてしまえ』って発想が、とても暴君なんですが」
「朝には元の姿に戻してやるだけの優しさは持ってるぜ」
「優しくないです。第一、ベッドにもぐり込んだ猫が翌朝には裸の美女に戻ってるんですよ」
「じゃあ、俺と一緒にいない時だけ人間に戻す」
「発想が暴君を通り越して鬼畜になってます。逆に聞きますが、確かにやり過ぎとは言え、二人の美女から積極的にアプローチされるのが、そんなに不快ですか?」
「不快とは違うかな。何かボケ続けてるのに誰からもツッコんでもらえないお笑い芸人を見て、『分かった。もういい。あんたは頑張ったよ』、と声を掛けたくなるあの感じかも」
「それは『不快だ』と言われるよりキツいかもしれませんね……」
お笑い芸人を殺すのに刃物は要らない。