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古武術詐欺師に騙された悪役令嬢は今日も無意味な修行に励む  作者: 真宵 駆
▽おまけ1△ 古武術詐欺師は今日もせっせと悪役令嬢を騙し続ける
186/554

▼186▲ 説得を成功させる条件

 結局その晩もなし崩しにベッドにもぐり込んだグレタとイングリッドに挟まれて寝るエイジン先生。


 昨晩と違い、全裸ではなく浴衣を着ているだけマシか、と思ったのもつかの間、あっと言う間にイングリッドに帯を取られた挙句、左右から浴衣を引っ張られ、ほぼ全裸と変わらなくなる。


 そこへ、自分達も帯を解いて前をはだけたグレタとイングリッドが、両側からほぼ全裸で抱きつき、


「浴衣を着る意味がないんだが」


 エイジンが抗議するも、


「『旅に来たなあ』、と風情を感じるんでしょ」

「着衣エロ派のエイジン先生なら、はだけた浴衣の良さを分かって頂けると思っていましたが」


 二人共的外れな返答をして離れようとしない。


「いっそ、俺の世界へ行って本物の温泉宿に泊まってみるか? もっとしみじみした雰囲気を楽しもうとする意欲が出て来るぞ」


 エイジンの提案に一瞬目を輝かせた二人だったが、すぐに怪訝な表情に戻り、


「で、今度は何を企んでいるの、エイジン?」

「元の世界に戻らせてから逃亡を企てても、再召喚するので無駄ですからね、エイジン先生」


 一ヶ月前に詐欺被害に遭った事を踏まえ、おいそれとは信用しなくなっていた。


「疑い深いやっちゃな」


「誰のせいだと思ってるのよ」

「もう騙されません」


「安心しろ。あんたらを当分騙すつもりはない」


「『当分』って、どういう事!」

「いずれは騙すつもりなんですね」


「絶対的に俺が不利なこの状況で、あんたらを一時的に騙しても意味がない。ここは一つ、時間を掛けて説得し、改心してくれるまで待つさ」


「改心すべきなのはエイジンの方でしょ!」

「絶対説得なんかに負けたりしませんから」


「メイドの方は自ら壮大な負けフラグを立てたな。なあ、グレタお嬢様」


 エイジンはグレタの方を向いて言う。


「何よ」


「もし、自分が突然見知らぬ男達に誘拐されて、ずっと家に帰してもらえず、入浴中に強引に乱入されたり、裸で一緒に寝る事を強制されたら、どんな気分だと思う?」


「そ、それは」


「高額な報酬をもらえるなら、そんな事は気にしないか?」


「気にするわよ! でも、でも、この場合は」


「相手の立場に立って、『もし、自分が同じ事をされたら』と考えるのはいい事だ」


「うっ……」


「じゃあ、今のやりとりを踏まえた上で、次はどうしたらいいと思う?」

「騙されてはいけません、お嬢様」


 エイジンに丸め込まれつつあるグレタに、イングリッドが反対側から警告した。


「もし、グレタお嬢様を誘拐した犯人がエイジン先生だったら、と想像してみてください。ずっと家に帰してもらえず」


「何年でも平気ね」


 グレタが答える。


「入浴中に強引に乱入されたり」


「全然構わないわ」


「裸で一緒に寝る事を強制されたら」


「今してる事じゃない」


「つまりはそういう事です」


「そういう事ね。ちょっと騙されかけたけれど、そうはいかないわよ、エイジン」


 エイジンを抱きしめる腕に一層力が入るグレタ。


「いや、どう考えても、イングリッドがあんたを騙してるだろ」


「詐欺師の言う事なんか聞かないわ」

「説得は日頃の行いがモノを言うのです、エイジン先生」


 してやったりな笑みを浮かべて抱きついたまま、やがて二人の痴女は眠りに落ちた。

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