▼184▲ 風呂場の宗教会議
茹でたての素麺に蒸し鶏と野菜サラダという夕食を終え、しばらく食休みを取ってから夜のジョギングを済ませた後、そのまま風呂を共にする、エイジン、グレタ、イングリッド。
「なあ、やっぱり男女別々に入るべきだと思うんだが」
右隣にグレタ、左隣にイングリッドと、両側から全裸の美女に挟まれつつ湯船に浸かるエイジン先生が、今更な事を言う。
「別に私はエイジンとなら一緒に入っても構わないわよ」
グレタは平静を装ってそう言ってみせたものの、まださほど裸同士に慣れておらず、エイジンに裸で肩を寄せている事にかなり動揺しているのが表情に見て取れた。
「見慣れた裸は魅力が半減するぞ。誘惑したかったら、裸の安売りは控えた方がいい」
「そ、そうなの?」
エイジンの言葉に別の意味で動揺し始めるグレタ。
「ああ、少なくとも俺は慎み深い方が好きだ」
「騙されてはいけません、お嬢様。そんな事をエイジン先生がわざわざ言うのは、お嬢様のカラダに誘惑されつつある証拠です。このまま露出戦術を続行してください」
反対側から横槍を入れるイングリッド。
「ご主人様を惑わす妄言は慎め、この不忠メイドが」
「図星を指されて逆ギレですか? ムッツリスケベ先生」
「あんたはもう手遅れかもしれないが、まだグレタ嬢は引き返せる領域にいる。ご主人様を大切に思うなら、これ以上痴女の道に引きずりこむのはやめてやれ」
「痴女呼ばわりされようとも懸命に大胆なアプローチを続ける乙女心を分からない様では、人に道を説く資格などありませんね、エイジン先生」
「乙女心に付け込んで間違ったアプローチを吹き込むな。ティーン向け少女雑誌のエロ記事かあんたは」
「倉庫でいくつかバックナンバーを拝見した事がありますが、完全にエロ本ですねアレ」
「『女の子のHな体験談』とか、絶対書いてるの中年のエロ親父だよな。まあ、読者の大半はそんな記事を真に受けたりしないだろうが」
「え、嘘なんですか、あの記事」
「真に受けてたのかよ!」
「冗談です。『普通の女子高生が電車の中でイケメンに痴漢されて、そのまま学校をさぼって終点まで行ってしまった挙句、そこに待ち構えていた五人の宇宙人にUFOへ攫われて触手で嬲りものにされた』、という体験談を信じろと言う方が無理です」
「雑誌を間違えてるぞ、おい」
「それに比べれば、『健全な殿方を孤立無援の異世界に召喚し、自分達以外に女っ気のない場所に閉じ込めて、毎晩裸で迫り続ければ、いつかは性欲に負けてオちるだろう』、という作戦など可愛いものです」
「悪魔かあんたは」
「そんな訳ですから、とっとと性欲に負けてください、エイジン先生。でないと、お嬢様と私が痴女みたいじゃないですか」
「『みたい』じゃなくて、モロに痴女なんだが」
「あ、性欲に負けると言っても、昨晩の様な扱い方は頂けませんね。相手の気持ちに配慮しなければ、お互いに嫌な気持ちだけが残るものです」
「懲りてねえな、あんた」
「そもそも、ここまでされても頑なに関係を持とうとしないのは、エイジン先生が恐れているからではないでしょうか」
「一種の女性恐怖症か?」
「いえ、一応大きく固くなってますから、それはないかと」
「やかましい」
「『もし関係を持ってしまったら、私達を放置出来なくなる』のを恐れている、ということです。ヤリ逃げ出来るタイプではなさそうですし」
「随分善人に思われてるんだな、俺は」
「実際善人でしょう。素直になれない天邪鬼な所がありますが。性的な意味で」
「仮に善人だとしても、人は裏切る時には裏切るもんだぞ。俺の世界で一番有名な聖人の弟子でさえ、命惜しさのあまり鶏が鳴く前に三度、その聖人に向かって『こんな奴知らない』と言ったんだぜ」
「ペトロですか。引き合いに出すのもおこがましいですが、もし私達がエイジン先生に『こんな奴知らない』と言われたら、無理にでも思い出させてあげますからご安心ください。性的な意味で」
そんなエイジンとイングリッドのしゃべくり漫才じみた応酬に入れず、ちょっと寂しい思いをしていたグレタは、エイジンの右腕に抱きついて自分の胸を押し付けてみたりしていた。
着々と痴女化進行中。