▼181▲ 間違った和風ロシアンティー
エイジン先生がアランと別れて小屋に戻ると、
「おかえりなさいませ、エイジン先生」
ド派手なヒョウ柄のスーツにヒョウ柄のシャツににヒョウ柄のスカーフを身に纏い、サングラス、付けヒゲ、パンチパーマのヅラを付けたイングリッドが恭しく出迎えた。
「ただいま。昨日の『仕事の出来そうな女性会社員』の身に一体何があったんだよ」
「エイジン先生にベッドで乱暴されそうになったショックで、この通りPTSDになってしまいました」
「主従で同じボケか。それにしてもこんな衣装まであるとは、あの倉庫は守備範囲広いな」
「私は一本のペンを持ってます」
「やかましい」
それ以上追及すると色々ややこしい事になると判断したエイジンは、さっさと自分の寝室で室内着に着替え、気を取り直してキッチンに行くと、仮装を解いていつものエプロンドレス姿に戻ったイングリッドが、
「もう少々お待ちください。グレタお嬢様から、今日はこちらで一緒に夕食を取りたい、と連絡がありましたので」
と告げた。
「じゃあ、アンヌとのトレーニングが終わってからだから、まだ少し時間があるな」
「と言う訳で、それまで少しお茶にしませんか、エイジン先生?」
そう言って、イングリッドは二つのティーカップに白いティーポットから紅茶を注ぎ淹れ、イチゴジャムを盛った小さな小皿とスプーンを添えて、エイジンの方に差し出した。
「ロシアンティーか。ジャムを直接舐めながら飲むんだよな」
そう言いながら、イングリッドと差し向かいにテーブルに着くエイジン。
「紅茶に直接溶かしても構いません。エイジン先生の世界では、そちらの方が一般的でしょう」
「食前にこれを出すって事は、今日の夕食はロシア料理か」
「いえ、ロシア料理はまた別の機会にして、今晩は素麺を茹でる予定です」
「ロシアンティーと合わねえ料理にも程があるな」
苦笑しながらジャムをスプーンですくって舐め、紅茶に口を付けるエイジン。
「ささやかな嫌がらせです」
「嫌われたもんだな。でもこれはこれで美味いよ」
「本当に嫌っていたら、こんなものでは済みません」
「一服盛られかねないな」
「ジャムの代わりにワサビを舐めて頂きます」
「その方が素麺には合いそうだ」
減らず口の応酬が続く。