▼176▲ 寝床にもぐり込んで来る二匹の猫
全裸のエイジンが全裸のグレタをお姫様抱っこして廊下を歩き、さらにその後から全裸のイングリッドが付いて来るという、どう考えても頭のおかしい行動の末、ついに三人は全裸のままエイジンの寝室まで辿り着いた。
全裸のエイジンは全裸のグレタをベッドの上に横たえると、
「これでいいだろ。とりあえず、皆、何か着ようぜ」
この頭のおかしい行動を終わらせるべく、まともな事を提案する。
「今晩、エイジン先生が身に着けていいのはこれだけです」
全裸のイングリッドは、机の上に用意してあったカラフルな箱から、いくつか縦に繋がった小さな正方形に包装された何かを取り出してエイジンに提示した後、ベッドの枕元にそれを置いた。
「何でしたら私が口で着けて差し上げても」
「その無駄なスキルはもっと他の有益な事に振り向けてくれ」
しょうもない言い合いをするイングリッドとエイジンをよそに、自分の頭のすぐ側に置かれたそれを見て、グレタは既に真っ赤になっている顔をさらに真っ赤に染めて動揺が止まらない。
「ほ、本当に、す、するの……?」
そんなグレタの呟きに気付かず、イングリッドはエイジンに、
「とりあえず全裸で立ち話も何ですから、エイジン先生もベッドに入ってください」
と促した。
「今更だが、すげえセリフだな、おい」
「と言う訳で、お嬢様、申し訳ありませんが、もう少し奥に移動して頂けませんか?」
グレタが激しく動揺しつつも奥へ移動して場所を空けると、イングリッドはそこにエイジンを追い立てる様にして押し込み、自分もその隣にもぐり込んだ。
大きなベッドの上で、グレタ、エイジン、イングリッドが、川の字に並んで寝ている体勢になる。全裸で。
イングリッドはエイジンに横から抱きつきつつ、
「では、お嬢様もそちらから抱きついてください」
「名家のお嬢様に何をさせようとしてるんだよ、あんたは」
かなり際どい事をしている割に平然と会話しているイングリッドとエイジンに、
「あ、あなた達、い、いつもこんな事してたの?」
動揺しまくりのグレタが少し声を上ずらせて尋ねる。
「はい、抜け駆けの様な真似をしてしまい申し訳ありません。ですから、お嬢様も遠慮なく」
「名家の風紀を乱すメイドの言う事を聞くな。むしろ今後慎むように主人から釘を刺してくれ」
平然と答えるイングリッドとエイジン。
「な、な、な……!」
思考回路がショート寸前なグレタ。
「なあ、グレタお嬢様。色々事情があって黙っていたが、あんたのメイドはちょっとやり過ぎだと思うぞ。嫁入り前の若い女性が、自分から裸になって夫でも恋人でもない男にこんな風に夜な夜な抱きついてくるなんて、どう考えても問題があるだろ? さらにご主人様までそそのかして、男の入っている風呂に乱入させたり、こうして一緒のベッドに寝かせたりするなんて、どうかしてると思わないか? ま、やってしまった事は仕方ないとして、今後はこんな事をしない様に、よく言って聞かせてやってくれ」
そんなグレタを宥める様に、布団から手を出して頭を優しく撫でながら言い聞かせるエイジン。
「エイジン先生の言う事を聞いてはいけません、お嬢様。一ヶ月前、この詐欺師が私達を舌先三寸ですっかり騙しおおせた事を、もうお忘れですか?」
しかしイングリッドが横やりを入れると、宥められつつあったグレタは、ハッとした表情になり、
「また騙そうとしてたのね、エイジン! そうはいかないわよ!」
意を決してエイジンに横から、ぎゅっ、と抱きついた。全裸で。
「俺じゃなくてイングリッドに騙されてるぞ、おい」
そんなエイジンの言葉も全く耳に入らない様子。
とりあえず、皆、頭おかしい。