▼175▲ 裸のお姫様抱っこ その二
エイジンが風呂場を出て脱衣所の棚を見ると、そこにあるのはバスタオルだけで、持って来たはずの着替え一式がどこにも見当たらない。
「あいつらの仕業か」
呆れた様に呟いてから、エイジンが体を拭いていると、風呂場のドアが少し開いて、
「昨日のアレをグレタお嬢様にもやって頂くので、着替えを取りに戻る必要はありません。そのまま全裸でスタンバっていてください」
頭のおかしいメイドが顔を出して言う。
「いい大人があんな事して楽しいか?」
エイジンがそちらを振り向かずに体を拭きながら言うと、
「楽しいですが、何か?」
イングリッドはそう答えて顔を引っ込め、ドアを閉めた。
それから待つ事約十分、ついに全裸のイングリッドが同じく全裸のグレタの手を引いて風呂場から出て来る。
イングリッドが前を隠さず堂々としているのに対し、グレタはまだ羞恥心が残っているのか顔を真っ赤にして、中途半端に胸を手で隠していた。ただし、もう一方の手はイングリッドに引っ張られているので、股間は全く隠せていない。
下半身にバスタオルを巻いたエイジンは、小さな籐のスツールに腰掛けていたが、二人が来ると部屋の隅にスツールを持って移動し、そちらに背を向けて座り直した。
「今更紳士ぶる必要はありませんよ、エイジン先生。どうぞ好きなだけご鑑賞ください」
イングリッドが声を掛ける。
「散々裸を見たり見られたりしたあんたはともかく、グレタ嬢は可哀想だろ」
バスタオルで体を拭いている二人に、背を向けたまま答えるエイジン。
「か、可哀想って何! いいわよ、エイジン、好きなだけ見なさいよ!」
負けず嫌いかつ半ばヤケになったグレタが叫ぶ。
「無理すんな」
振り向かずに答えるエイジン。
やがて体を拭き終わり髪も乾かした主従が、座っているエイジンの目の前に一糸纏わぬ姿で回り込んで突っ立ち、
「エイジン先生、自分だけバスタオルは反則です。取ってください」
「ゆ、夕べ、イングリッドにしたのと同じ事を私にもしなさいよ!」
逆セクハラを通り越して、完全に痴女と化していた。
エイジンはすっくと立ち上がって下半身に巻いていたバスタオルを外してスツールに置き、全裸のグレタを手際よく横抱きに抱えると、
「これで満足か」
と言って、寝室の方へ歩き出す。
自分で要求しておきながら恥ずかしさでパニック状態に陥ってしまったグレタは、何も言えないまま、エイジンにお姫様抱っこで運ばれて行った。
「何の意味があるんだ、これ」
全裸で後からついて来るイングリッドに、全裸のエイジンが問う。
「裸エプロンが男のロマンなら、裸お姫様抱っこは女のロマンです」
「ダウト。百歩譲って、ただのお姫様抱っこなら、まだ話は分かるが」
「ただのお姫様抱っこなら他人同士でも出来ますが、裸お姫様抱っこが出来るのは本当に信頼し合っている者同士にしか出来ません」
「本当に信頼し合っていても、バカバカしくて出来ない、って人もいると思うぞ」
「格好はどうあれ、無防備な姿で相手に全身を委ねている、という所が重要なのです」
「犬が腹を見せて服従のポーズを取るのと同じか」
その例え方が気に食わなかったのか、グレタはお姫様抱っこされたまま、エイジンの頬を軽く、ぺち、と叩いた後、首にぎゅっと抱きつき、
「エイジンの事、信頼してるんだからね」
と小さな声で言った。
「これは信頼とかそういう問題じゃないと思う」
真顔で答えるエイジン。