▼170▲ 春巻のお行儀の悪い食べ方
痴女スーツから、いつものエプロンドレスに着替えたイングリッドが、キッチンのテーブルの上に料理を並べ、
「今日の夕食は八宝菜と春巻と小籠包です。昨日は立食形式でしたから、こうしてエイジン先生と差し向かいで夕食を頂くのも一ヶ月振りですね」
と、しみじみとした口調で言う。
「何かいい話っぽく言ってるが、実際の所、俺は一ヶ月振りに強制拉致されただけだからな。でもそれはそれとして、これは美味い」
熱々の八宝菜を少しずつ取って息を吹きかけながら口にしつつ、エイジンが抗議する。
「エイジン先生が私達を騙して逃亡してから一ヶ月の間、こちらは再召喚の準備を進めつつ、今回の『エイジン先生をきまぐれなオレンジ色のロードの上で歩かせて遊ぼう』計画を立案した訳ですが」
「また、例の倉庫にあった昔の少年漫画を参考にしたのか。悪い事は言わんから、手遅れになる前にやめておけ」
「計画は完璧だったのですが、流石にエイジン先生の目は欺けなかった様です」
「あれのどこが完璧なんだよ。不自然過ぎて裏に何かあるとしか思えんわ」
「ならばエイジン先生も、いっそ騙された振りをして、主従丼でウハウハな少年向けラブコメ主人公状態を満喫していればよかったものを」
「それ少年向けラブコメ主人公じゃなくて、もはや成人男性向けエロ漫画主人公だから」
「二人の美女とヤリ放題ですよ。何の不満が?」
「自分で美女言うな。まあ、美女だけど。俺がウハウハだと仮定して、あんた達はいいのかそれで? 自分の相手が自分以外の相手とそういう事をしているのに耐えられるのか?」
「エイジン先生の世界にはNTRという属性が」
「うん、真面目に聞いた俺がバカだった」
「冗談です。耐えられる耐えられない以前に私は、『グレタお嬢様から愛する人を奪い取る』、などという外道な真似は断じて出来ません」
「リリアン嬢が結果的にジェームズ君を奪い取った様に、か」
「親同士で決められただけの婚約者で何の愛情もなかったジェームズ様が、リリアン嬢の元に去られた時でさえ、グレタお嬢様は大層傷付かれました」
「ジェームズ君とリリアン嬢は、グレタ嬢にもっと傷付けられたけどな。物理的に」
「もしグレタお嬢様が、どうしてもエイジン先生を独占したい、というのであれば、私はこのガル家を去る覚悟です」
「グレタ嬢が傷付く方が耐えられない、って事か。主人思いのメイドの鑑だな」
「ですがグレタお嬢様も、私とエイジン先生の爛れた仲を裂くのは忍びない、と申されまして」
「誰と誰が爛れた仲だよ」
「協議の結果、『エイジン先生を二人で分け合う』事に決まりました」
「勝手に分割占領を決めるな。俺はポーランドか」
「もちろん第一夫人はグレタお嬢様です。そして、私を第二夫人として認めてくださる事により、三人はその後も末永く仲好く暮らしましたとさ、という訳です。性的な意味で」
「やかましい」
「三人ですと、それだけプレイの幅も広がりますし」
「いっそ、あんたが男だったらよかったのにな」
エイジンがそう言うと、イングリッドは血相を変えて立ち上がり、
「まさか、やはりエイジン先生はそちらの趣味で!? 私達に手を出さないのもそういう事だったのですか!」
「違うわ! 俺にそっちのケはねえよ!」
エイジンも声を荒げて否定する。
「ああ、びっくりしました。驚かせないでください。そうですよね。私の裸を見たり私に裸で迫られている時、ちゃんと反応して大きく固くなってますものね」
「やかましい。『あんたが男だったらよかったのに』、ってのは、そうすれば、あんたとグレタ嬢が結婚して万事丸く収まるのにな、って事だ」
「私では駄目です。私はグレタお嬢様にどんな危機が降りかかろうとも、共に立ち向かう覚悟はありますが」
イングリッドは再び席に着き、
「降りかかる危機からグレタお嬢様を回避させる事が出来るのは、エイジン先生だけですから」
そう言って春巻を一本取り、わざとお行儀悪くペロッとその先端を舐めて見せた後で、
「私に出来るのは、せいぜい大きく固くなったエイジン先生の一部を満足させて鎮める事位なものです」
「なぜ、結構いい話を最後で台無しにするかなあんたは」
呆れ顔のエイジン先生。