▼167▲ 撫でて欲しい部位をアピールする猫
エイジンの上にまたがったまま、グレタは再び上半身を密着させて抱きつき、顔をエイジンの肩に乗せ、
「前にエイジンは、『セルフコントロールを忘れるな』、って言ったわね」
少し神妙な口調になる。
「言った」
ぶっきらぼうに答えるエイジン先生。
「私はそのセルフコントロールが苦手なのよ。ささいな事でカーッとなっちゃって、つい、怒鳴ったり、殴ったり、壊したり」
「念の為聞いておくが、最後のは物だよな。人じゃなくて」
「自分で自分の感情が抑えられないの。ちっちゃい子みたいに」
「自覚はあるんだな」
「そんな私が、皆から『狂犬』扱いされるのも仕方のない話ね。でも、やっぱり『狂犬』扱いされると腹が立って、ますます暴れてしまうの」
「悪循環って奴だ。どこかで踏みとどまらない限り、事態はどんどん悪化するぞ」
「エイジン、撫でてくれる?」
グレタの要求に従い、頭を優しく撫でてやるエイジン。
「頭だけじゃなく、もっと下まで」
エイジンの撫でるストロークが頭から背中まで伸び、
「もっと下よ」
ついに尻まで達した。
が、グレタは先程尻を撫でられて慌てふためいた時とは違い、素直にエイジンの手の感触を受け入れ、
「そういう風に、ゆっくりと優しく撫でてくれれば大丈夫なのよ」
気持ち良さそうに目を閉じ、大きく息を吐いた。
「エイジンがいつも側にいて、こういう風に宥めてくれれば、つい、カーッとなりそうな時でも自分を抑えられると思うの。エイジンと一緒なら、私は『狂犬』にならずに済むの」
エイジンは黙ってグレタの頭から尻まで撫で下ろし続ける。
「だから、私にはエイジンが必要なの。ねえ、前も撫でて。ゆっくりと、優しく」
グレタは密着させていた上半身を、少しエイジンから離して待った。
が、エイジンはこの要求をスルーして、頭から尻まで撫で下ろし続ける。
「前よ!」
グレタは、ぐい、とのけぞって、「胸と腹とその下を撫でろ」、とアピールした。
エイジンはグレタの首に手を掛けて、ぐい、と引き寄せて元の態勢に戻し、あくまでもグレタの後部を撫で続ける。
グレタはじたばたともがいたが、やがて諦め、エイジンに抱きつき、
「エイジンは私を宥めるのが上手ね」
かつては「狂犬」とまで言われた悪役令嬢も、今やすっかり「チョロイン猫」と化していた。