▼165▲ ドッキリの見破り方
その後もしばらくグレタはすねた振りを続け、エイジン先生に対面座位で抱きついたまま動こうとしない。
「いい加減降りてくれ」
「嫌」
正に膝の上へ猫に乗っかられた飼い主状態。
宥めようとして頭を撫でてやると、グレタはにやけてしまう顔をエイジンに見せまいと、ぎゅっと抱きついて、自分の顔をエイジンの肩の上に置いてご満悦。
エイジンはそんなグレタの頭を撫でながら、話を続ける。
「そもそも、俺にドッキリを仕掛けるだけの為に、自分の体を軽々しく扱うなよ」
「エイジンこそ、ここまでされて何もしないのはどうかと思うんだけど」
「さっき、自分がどんな反応をしたのか、もう忘れたのか?」
「あ、あれは、エイジンが急に変な事したからでしょ! 急にやられたら誰だって怖いに決まってるじゃないの! もっとゆっくり、優しく扱いなさいよね!」
抱きつく腕に力を込めるグレタ。
「何でドッキリ被害者の方がクレームをつけられなきゃならないんだよ」
「まだ被害者になってないじゃない! 私達を騙したんだから、素直に騙されてよ!」
「やめとけ。あんた達は主従揃って人を騙すのに向いてない」
「悪かったわね。大体、何で簡単にこっちの計画を見破ったのよ」
「イングリッドを俺と一つ屋根の下に住む事を許可しただろ。二人で何か企んでいるのでなければ、あんた以外の若い女を、俺と一緒にヤリ部屋同然の一軒家に放置する訳がない」
「大した自信ね。私がエイジンの事をそんなに好いていると思って?」
「こんな風にべったり抱きついてる状態で言われてもな。さらに、あんた達二人は俺にあからさまな色仕掛けでアプローチして来た訳だが、おかしいのは、あんたの色仕掛けにイングリッドが積極的に協力してる一方で、あんたが小屋から屋敷に戻るとすぐ、そんなあんたを裏切る様にイングリッドが平然と俺を色仕掛けで誘惑してる事だ。あれだけ主人思いのメイドが、だ」
「……それは、しくじったわね」
「二人が裏で繋がってるとしか思えねえよ。ただ、俺をからかうにしては、二人共かなり本気で迫って来てたんで、ちょっとやり過ぎじゃないかと気になってたんだが、アラン君からこの国の法律について聞いて合点がいった」
「な、何を聞いたのよ」
「俺のいた国では禁止されているある事が、この国では許可されている」
そこでエイジンは言葉を切ったが、グレタは何も言わない。エイジンは少し間を置いてから、
「それは『重婚』だ」