▼161▲ 真夜中の鬼
寝巻用の作務衣に着替えたエイジン先生が、自分の寝室のドアに施錠し、照明をナイトランプに切り替え、広々としたベッドにもぐり込み、手足を思い切り伸ばした状態で横になってうとうとしていると、マスターキーで解錠される音に続いてドアが開き、
「悪い子はいねがー!」
いかめしい赤い鬼の面を付け、体中を藁で覆ったなまはげが、右手には切れないダミーの出刃包丁、左手には木製の手桶を持って騒々しく乱入し、エイジンの幸せなまどろみを妨げた。
「悪い子はいねがー!」
「やかましい!」
ベッドの上に立ち上がってわめき散らしつつ出刃包丁を振り回すなまはげに抗議するエイジン。
「お、こんな所に女心を弄ぶ悪い子が!」
「どんなマセた子供だよ!」
「澄ました顔をして、その実、心の中では『お嬢様とメイドの主従丼』を企む悪い子め!」
「だからどんな子供だよ、それは!」
「女を騙して突然いなくなったヤリ逃げ男だ!」
「ヤッてねえだろ!」
「それはそうと、さっきはよくもぶっかけてくれましたね!」
「冷水をな! ピンク色に火照った頭もさぞ冷えたろうよ!」
「あれ、本当に冷たかったんですよ」
「すぐ近くの湯船にお湯がいくらでもあっただろ」
「ヒャッハー、悪い子は消毒だー!」
そう言いながら襲い掛かって来たなまはげから、エイジンは鬼の面を奪い取ると、
「はっ、今まで私は何を」
「やかましい」
すっとぼけるイングリッドの額を軽く、ぺち、と叩く。
それで気が済んだのか、イングリッドはようやくベッドから下り、
「と言う訳で、なまはげショーは楽しんで頂けましたでしょうか、エイジン先生」
「いい気持ちでうとうとしてた所を起こされて、最悪の気分なんだが」
「衣装の藁くずが散乱してしまったので、これから床とベッドに軽く掃除機を掛けます。その間、お手数ですが、もう一度シャワーを浴びて来てもらえませんか」
「お互い藁まみれになるよな、これ。本当にお手数だよ」
しょうもないイタズラの代償として体に付着した藁くずを落とす為、エイジンは仕方なくもう一度シャワーを浴びに浴室へと赴いた。