▼160▲ 美容院の前で回っている三色のサインポール
イングリッドに体の前を洗わせる事を何とか拒否したエイジンは、その代わりに髪を洗われる事になり、シャンプーで泡だてられた頭をわしゃわしゃとマッサージされていた。
「エイジン先生、どこかかゆい所はありませんか」
「ない」
「そこは『股間』とボケるのがお約束です」
「ベタな美容院コントかよ」
「いえ、そこで私が『分かりました』と言って、おもむろにエイジン先生のいきり立つサインポールを」
「放送出来んわ、そんなコント」
「泡をお流ししますので、目をギュッと瞑ってください」
イングリッドはエイジンに目を瞑らせ、上からシャワーを掛けつつ、指を髪の間に差し入れて梳く様に泡をすすぎ落とし、髪の次は首、肩、背中、胸、腹と撫でまわしながら泡を上から順に落として行き、
「もういい、それより下はやめろ」
サインポールを撫でまわそうとした所で、エイジンに抗議された。
「遠慮なさらないでください、ちゃんと泡をすすぐだけですから」
エイジンの正面にかがみこんでサインポールに伸ばした手をがっちり掴まれたイングリッドが言う。
「いくらなんでも、限度ってものがあるだろう」
「ではシャワーで洗い流すだけにします」
イングリッドはもう一方の手に持つシャワーヘッドをエイジンのサインポールに向けた。
「おいこら」
「草木にジョウロで水をあげている気分ですね」
「こんなものが地面から生えてたら不気味だろ」
「大きくなあれ」
「やかましい」
エイジンはシャワーヘッドを奪い取り、湯の勢いを強くして、イングリッドの股間に至近距離で当てた。
「ひっ!」
イングリッドはかかんだまま体を、ビクッ、と大きく震わせ、思わず股間を手で隠しつつ足をさっと閉じ、
「いきなり何をするんですか! 変態!」
顔を真っ赤にして抗議する。
「その変態行為を、俺は今あんたにやられてた訳だが」
シャワーを自分の体に向けて、残りの泡を悠々と流すエイジン。
少し間を置いて、落ち着きを取り戻したイングリッドは、
「そういうプレイがしたいのであれば、事前に言ってくださればいくらでも」
いつもの淡々とした減らず口に戻るが、顔の赤みはまだ引いていない。
「さて、全部洗ったし、俺はもう上がるぜ。女は色々とお手入れする事があるだろうから、ゆっくりしてってくれ」
絞ったタオルで体をざっと拭いたエイジンが浴室から出ようとするのを、イングリッドは背後から左手首をつかんで引き留め、
「待ってください、エイジン先生。一つお願いしたい事があるのですが」
「何だ?」
「メイドの身でおこがましいと思われるかもしれませんが、私の背中を流して頂けないでしょうか」
エイジンはちょっと考えてから、
「分かった。俺も背中を流してもらったしな」
引き返してイングリッドをシャワーの前に座らせ、スポンジを手に取った。
「申し訳ありませんが、私は敏感肌なので、スポンジではなく掌で直接お願いします」
「それが百パーセント嘘なのは分かってるが、今日は特別にやってやる」
エイジンは掌にボディーソープを付けると、イングリッドの背中を直接さすり始める。
「お返しとは言え、女性相手にさっきはやり過ぎた。悪かったよ」
「おや、随分と殊勝ですね?」
「やっていい事と悪い事の区別くらい付いてるさ。ただし、あんたとこうして一緒に風呂に入ったり洗いっこしたりするのも、あまりやっていい事とは思えないが」
「内弟子が師匠のお背中をお流しするのは当然です」
「俺はあんたを内弟子にした覚えはない」
背中をまんべんなくさすり終えると、次にイングリッドの腕を取ってさすり始めるエイジン。
「腕もやってもらったからな。嫌ならそう言え」
「いえ、ありがとうございます、エイジン先生。腕の次は体の前の方もお願いします」
「前は自分で洗え。俺も自分で洗った」
「では髪を洗ってください。殿方より量が多くて大変かもしれませんが」
「俺がやっていいのか? そういう事は自分でやった方が手入れが行き届くだろうに」
「構いません。ですが、その際背後からではなく、正面に回って洗って頂くとありがたいのですが」
「その態勢の方がよく洗えるのか?」
「いえ、髪をわしゃわしゃする度に、エイジン先生のサインポールが揺れるのを眺めるのが楽しいので」
エイジンは無言で、上から冷水のシャワーをイングリッドに浴びせる。
「ひっ!」
「やっぱ、後は自分で洗え」
身を縮めて震えるイングリッドを残し、エイジンは浴室から出て行った。