▼16▲ 高く上げた右足
その後、一つ屋根の下でメイドさんの作ってくれたビーフストロガノフを、キッチンのテーブルに差し向かいで一緒に食べるという、秋葉原なら結構な金を取られそうなイベントが発生し、エイジン先生もさぞ萌え萌えキュンかと思いきや、
「結構美味いな。後でレシピを教えてくれ。今度自分で作ってみたい」
メイド要素はどうでもいいらしく、「情報だけくれ、お前はいらん」と言わんばかりの素っ気ない態度であった。
「はい、かしこまりました。書面にして提出させて頂きます。何でしたら、一緒に作らせて頂いた方が、色々と分かり易いかと思われますが」
「いい。一人で出来る」
イングリッドの申し出をすげなく断るエイジン。
逆に食後、エイジンが、
「料理を作ってもらったんだから、洗い物は俺がやろう」
と言って、流しに向かおうとするのを、
「それは私の仕事です」
と、阻止するイングリッド。
「明日の朝食も、料理から後始末まで全て私にお任せください」
メイドとしてのプライドがあるのか、強硬な姿勢で押し切るイングリッドは、ますます一人暮らしの息子の下宿に乗り込んで世話を焼くオカンの様になって行く。
「申し訳ありませんが、今晩に限り、シャワーは私から先に使わせて頂きます。お客様を差し置いて失礼と思われるかもしれませんが、この小屋は何分長く使われておりませんでしたので、水道管の汚れが溜まっている恐れがありますから」
洗い物を終えた後、イングリッドはエイジンにそう言い渡すと、自分の着替えとタオルと入浴用品一式を手に、有無を言わさずバスルームに入ってしまった。
「終わったらまたきれいに掃除しておきますので、ご安心ください。では」
最後にそう言って、ドアを閉めるイングリッド。
「じゃ、俺は寝室にいるから、終わったら呼んでくれ」
ドア越しに声を掛けてから、エイジンは寝室に戻り、倉庫から持ち帰った品物の整理を再開した。
ところが一時間以上経過しても、まだイングリッドが呼びに来ない。
「ま、掃除するって言ってたから、下手するとまだまだ時間が掛かるのかな」
ざっと作業を終えたエイジンが、大きく伸びをしてから立ち上がり、寝室を出て、居間に改装された大部屋に入ると、そこにはバスルームから出たばかりと思しきイングリッドが、濡れた髪をタオルでわしゃわしゃと拭きながら、こちらを向いて立っていた。全裸で。
「あ、すまん! まさかそんな格好でいるとは――」
そう言い掛けた次の瞬間、イングリッドは無言のままタオルを投げ捨て、エイジンの前に駆け寄り、目にも止まらぬ速さで頭部を狙って右のハイキックを繰り出し、エイジンのこめかみに当てる直前でピタッと止めた。全裸で。
結果、スタイルのよい筋肉質の引き締まった体、その割りに大き目で形のよいお胸、高く上げた右足の付け根にある大事な場所の全てが、エイジンにまるっとお見通しである。
そのままの状態で、二人とも数秒間静止した後、イングリッドが、
「エイジン先生、避けないのですか?」
と、無表情で尋ねた。