▼158▲ 死と隣り合わせの風呂
その後エイジンはジャージに着替え、以前の日課だった夜の庭園内のジョギングを再開し、イングリッドもそれにお供した。
ジョギングを終えて小屋に戻って来ると、イングリッドの、
「掃除の都合がありますので、以前と同様、エイジン先生から入浴してください」
という勧めに従い、エイジンが先に風呂に入り、広い湯船の中で気持ち良さそうに体を伸ばして湯に浸かっていると、しばらくして、
「お背中をお流しましょう、エイジン先生」
一糸まとわぬ姿のイングリッドが、タオルで前を隠そうともせず、さも当然の様に堂々と浴室に入って来た。
「いらん。自分の体は自分で洗うから出てけ」
大して動揺もせずにそれを拒否するエイジン先生。
「リアクションが薄いですね。もっとこう、『キャー!』とか言って、体を隠す様に身を縮めて恥じらって頂かないと面白くないのですが」
そう言いつつシャワーの方に行き、ざっと体を洗い流すイングリッド。
「男女が逆だろ。それに今更騒いだ所で、引き下がるあんたじゃない」
「私の事を分かって頂けて光栄です」
シャワーを終え、湯船に足を踏み入れたイングリッドは、そのままエイジンに近寄り、その真正面に仁王立ちになる。
「少しは隠せ」
無修正の下半身を目の前にして、抗議するエイジン。
「では」
イングリッドはそのままエイジンの股の上にしゃがみ込み、
「対面座位です」
「どけ」
抗議を無視して真っ向から抱きつく様にして座った。
エイジンは抵抗を試みたが、
「あまり動かないでください、エイジン先生。密着している部分がこすれて、おかしな気分になりますから」
「だったらどけよ!」
まったくどこうとせず、がっちり抱きついたままのイングリッドに、エイジンはため息をつき、
「肩が冷えるぞ」
「では、時々湯をすくって肩に掛けてください。掌全体でやさしくなでる様に」
「お湯掛け地蔵か、あんたは。ほら、肩まで浸かれ」
エイジンは身を起して自分に抱きついたままのイングリッドを少し仰向けに倒し、その肩が浸かる様にしてやった。
「気持ちいいです」
目を閉じてうっとりとした寛ぎの表情になるイングリッド。
「ですが、この体位ではエイジン先生の肩が冷えてしまいま」
最後まで言えなかったのは、エイジンがさらに身を乗り出した結果、イングリッドの顔が湯に沈んだからである。
イングリッドは抱きついていた腕を離して激しくもがき、ようやくエイジンから離れると、湯の中から上半身をザバァと起こして、
「殺す気ですか!」
と抗議した。
「危ないから風呂で遊ぶな」
しれっと言うエイジン。