▼155▲ 寝室に連れ込まれるチョロイン
ドレスの首から胸を隠して腰に至るただでさえ頼りない布が乱れて、ほぼ乳丸出しになっているにも拘わらず、エイジン先生の腕にぎゅっと抱きついて離れようとしないグレタ。
ついに見るに見かねて、子供の服の乱れを直そうとする親の様に、何とかグレタの胸の先端だけでも布を寄せて隠してやろうとするエイジン。が、布がたわんで上手く隠せない。
「んっ」
指が直接先端に触れてしまい、グレタは目を瞑ってビクッと体を震わせ、思わず変な声を出す。
「あ、すまん」
「謝る必要はないわ。エイジンのしたい様にして」
「こんな状態で、突然イングリッドが入って来たらどうする」
「『取り込んでいるから、夕食は遅らせて』って言うわ」
「とりあえず落ち着け、離れろ。腕にしがみついて離れない猫か、あんたは」
「ニャア」
「やかましい」
エイジンが無理矢理ソファーから立ち上がっても、グレタは腕にしがみついたままである。半裸で。
仕方なくグレタをくっつけたまま、エイジンは居間を出て自分の寝室へと向かった。
寝室に入ってドアを閉め、
「離れてくれ」
と頼むと、グレタは急に素直になって腕を離し、
「離れたわよ」
期待に満ちた表情でエイジンを見上げ、次の言葉を待つ。
エイジンは無言で棚の方に行くと、そこに置いてあったブルーレイディスクのパッケージを手に取り、
「まだ時間があるから、これを観て暇を潰そう」
もう一方の手でグレタの手を取って、寝室から出て行こうとする。
「な、ちょっと!」
グレタは少し未練がましげに大きなベッドの方を振り向いたが、手を引かれるまま居間に連行され、元のソファーに座らされた。
「例の倉庫から持って来たんだ。俺の大好きな映画なんだが、観た事あるか?」
パッケージを見せられながら、エイジンに問われ、
「ないわよ!」
少し声を荒げて答えるグレタ。
「何の予備知識もなくこの映画を観られるなんて、あんたは幸運だぜ!」
妙に嬉しそうなエイジン。
その後グレタは、居間の大画面液晶テレビで、半強制的にエイジンお勧めの詐欺師映画を観せられる羽目になり、せめてもの腹いせとばかりにエイジンの膝の上に乗っかって首っ玉にしがみついていたが、次第にストーリーに引き込まれたのか、やがて膝から下りて隣にちょこんと座り、真面目に観賞し始めた。
そのまま一気に驚愕のラストまで観終えると、
「エイジンはこんなものを観て詐欺の研究をしてたのね」
少し苦々しげに感想を述べるグレタ。
「面白かっただろう?」
何故か得意げなエイジン。
腹いせとばかりに、再びその膝の上にグレタが飛び乗ろうとした時、テーブルに置いてあった携帯が鳴り、
「夕食の支度が整いましたが、いかがなされますか?」
と、イングリッドが知らせて来たので、
「今行くわ」
グレタは平静を装いつつそう答え、ドレスの乱れを直した。