▼154▲ 暴走痴女
映画の授賞式でセレブ感満載の女優に勝るとも劣らぬ痴女ドレス姿のグレタを、エイジンと共に居間に通し、二人分のお茶を出した後、イングリッドは、
「では、どうぞごゆっくり」
と、やり手婆よろしくキッチンに引っ込んだ。
結果、グレタとエイジンは広くて快適な部屋に二人きりとなる。
エイジンが長いソファーの真ん中に座ると、グレタもその隣に座って体を預ける様に寄り添い、
「この小屋は気に入ってくれたかしら、エイジン?」
頭を相手の肩にもたせかけながら、嬉しそうに尋ねた。
「ああ。小屋と言うには立派過ぎるけどな」
もたせかけられたまま、淡々と答えるエイジン先生。
「武術の先生をお迎えするに当たって、失礼のない様に配慮したのよ」
「突然拉致同然に召喚すること事態が失礼だとは思わなかったのか」
「突然元の世界に帰った人に言われても」
「『帰れ』と言われたから帰ったんだ」
「じゃあ、『来て』と言われたら来てくれるのね」
「その場合、せめて事前に連絡の一つは入れろ。コンビニにでも行くか、と外に出た所だったからまだよかった様なものの、これがもし天ぷら油を火に掛けてる所だったら大惨事だぞ」
「その辺はアランに召喚条件を付加する様に言っておいたから大丈夫よ。『特に用事もなく、ぶらぶら外出している時』とね」
「誘拐のプロかあんたら」
「どうせ、今も無職なんでしょ?」
「大きなお世話だ」
「よかったじゃない、ここで就職出来て」
「出来れば向こうで就職したかったんだが」
「向こうではエイジンを必要とする人がいないんだから仕方ないわ」
「何気にひどい言い草だな、おい」
「でも、ここにはエイジンを必要とする人がいるわよ」
そう言って、グレタはエイジンの腕に手を回し、それをぎゅっと抱き締める。
「胸が当たってる」
「当ててんのよ」
「それと言いにくいんだが、座ってその服がたわむと、胸が全部丸見えでトップレス状態なんだが」
「まあ、それは大変。服のたわみを直してくださらない?」
「デザイン的に直し様がない。ちょっと待ってろ、コントの泥棒が使う様な唐草模様の風呂敷を持って来てやるから、それを首に巻け」
そう言って立ち上がろうとするエイジンの腕にしがみついたまま、いたずらっぽく微笑んでグレタは、
「その必要はないわ。エイジンになら全部見られたっていいもの」
と引き留める。
「名家のお嬢様なんだから、もっと慎みをだな」
「服のたわみを直す振りをして、好きな様に触っても構わないわよ」
グレタのブレーキが壊れた。