▼153▲ 待ち焦がれ過ぎておかしくなった悪役令嬢
「その姿のエイジン先生を見ると、こちらの世界に戻って来てくださった事がつくづく実感出来ます」
作務衣に着替えて居間にやって来たエイジンを見ながら、イングリッドがしみじみと言う。
「戻って来たと言うより、こちらの意思と無関係に強制的に再召喚されただけなんだが」
冷めた表情で訂正するエイジン。
「ご帰還を祝して、今日はグレタお嬢様もこちらでエイジン先生と夕食を共にされたいそうです」
「歓迎会のつもりか」
「はい。本当にささやかなものですが、立食形式で手巻き寿司をする予定です」
「お、手巻き寿司か。何か手伝おうか」
「その必要はありません」
「ご飯に合わせ酢を混ぜる時、パタパタうちわであおぐ役は?」
「あおぐのは混ぜた後です。それより、準備が出来るまで、グレタお嬢様のお相手をしていてください」
イングリッドは携帯を取り出し、
「お嬢様、こちらの準備は整いましたので、いつでも好きな時にいらしてください。はい、では」
手短に通話を終えると、
「私はこれより準備に取り掛かります。お嬢様が来るまで、しばしお寛ぎください」
そう言って居間を出て行こうとして、ドアに手を掛けた所で振り返り、
「この一ヶ月間、お嬢様はエイジン先生のご帰還を、今か今かと待ち焦がれておられました」
「帰還と言うより拉致だがな」
「騙した事を少しでも済まなく思う気持ちがあるのであれば、どうかお嬢様には優しく接して頂く様、お願いします」
「騙した事は、無理矢理再召喚した事でチャラだと思うが」
「まだご自分の立場が分かっていない様ですね、エイジン先生。お嬢様のご機嫌を損ねた場合、元の世界に帰れないどころか、この世界で野垂れ死にする可能性もあるのですよ?」
「あんたら、俺を歓迎したいのか脅迫したいのかどっちだよ」
「別に難しい事をお願いしている訳ではありません。現在チョロイン状態のお嬢様に優しく接してあげてください。それだけです」
「主人に対してチョロイン呼ばわりは失礼だろう」
「どの位チョロいかと言うと、エイジン先生がその気ならすぐにでも寝室に連れ込める位に」
「おい」
「その場合、私はキッチンで寝取られ感に浸りつつ、お二人が事を終える頃合いに合わせて手巻き寿司の準備に励むのです」
「冗談にしてもグレタ嬢が聞いたら怒るぞ、流石に」
「くれぐれも着け忘れのない様にお願いしま」
「やかましいわ」
その時、小屋のドアチャイムが鳴り、イングリッドとエイジンが玄関に出ると、
「その姿を見ると、こちらの世界に帰って来た事がつくづく実感出来るわね、エイジン」
エイジンを再召喚した時に着ていた服よりさらに上半身の露出が多く、その形のいい乳に至ってはほぼ丸見えに近いオレンジ色のドレスを着た金髪縦ロールの痴女ことグレタがドヤな笑顔で立っていた。
「何か上に羽織れ」
思わずツッコむエイジン先生。
「嫌よ」
言う事を聞かないグレタ。