▼15▲ プライベートにあまり踏み込まれたくないタイプ
「私がここにいると、それほど不都合なのでしょうか」
真顔でイングリッドが問う。
「それほど不都合なんです」
うんざりした顔のエイジン先生が、オウム返しに返答する。
「少しお待ちください」
イングリッドは自分の携帯を取り出し、何やら誰かと相談している風であったが、やがて通話を終え、
「分かりました。それほど不都合なのでしたら、お側に控えさせて頂く事は取りやめにします。明日以降は、もう一つ携帯を用意致しますので、何か御用がある時は、二十四時間いつでも、それを使って私を呼び出してください」
ついに要望を聞き入れてもらえた様なので、エイジンもほっと一息ついたが、
「ですが、今晩一晩だけは、こちらでご一緒に寝泊まりさせて頂きます。この小屋に何か不具合が生じるといけませんので」
「え、そんなに危険な欠陥住宅だったのか」
一難去って、また一難だった。
「あちこち老朽化しております。一応修繕すべき所は修繕しておきましたが、明日の朝、エイジン先生が倒壊した小屋の下敷きになっているのが発見される事にでもなれば、お世話係である私の責任です」
「オチで潰れるドタバタコントのセットか、ここは。まあ、今晩一晩だけなら好きにしてくれ」
その後、アランとメイド部隊は屋敷に戻り、エイジンは、このクールビューティーを通り越して鉄仮面に近い武闘派メイドのイングリッドと、二人きりで小屋に残されてしまった。
寝室で倉庫から持ち帰った品物を整理し始めると、イングリッドが側にやって来て、
「私が整理して収納しておきます」
と言うのを、
「いいよ。自分の事は自分でやる」
と、追い払うエイジン。
しばらくして何やらキッチンで物音がするので、作業を中断してそちらへ行ってみると、イングリッドが勝手に牛肉と玉ねぎをフライパンで炒めていた。
「今夜の夕飯は、ビーフストロガノフです」
問われもしない内に、真顔で答えるイングリッド。
「分かった。俺の負け。今晩だけよろしく頼む」
憧れの一人暮らし初日に何故かオカンがやって来て何かと世話を焼きまくるので自由気まま感を味わえない状態のエイジン先生だった。