▼149▲ 犬が飼い主の洗濯物の上を好んで寝る理由
その後再びエイジンの寝室に戻って、ベッドに放置されていた眼鏡とホワイトブリムを回収し、再び装着したイングリッドは、
「それでは例の倉庫に参りましょう。そこでエイジン先生の生活に必要な物を揃えてください」
ついさっきまで巨大猫と化して甘えていた事などなかったかの様に、メイド然としたメイドに戻っていた。
「ああ、あの大型ディスカウントストア的な倉庫か」
「私もエイジン先生をおもてなしする為の衣装はそこで調達しています」
「コスプレ関連が無駄に充実してる所も、俺の元いた世界のとある店舗とそっくりだな」
倉庫の管理責任者であるアランと連絡を取って合流し、三人で中に入ると、
「ところで、アラン。俺が前に来た時に調達した品はもう全部処分したのか?」
エイジンが聞き、
「消耗品は屋敷の使用人で分配しましたが、衣類は全てエイジン先生の寝室のクローゼットに保管してあります」
アランが答える。
「クローゼットは空っぽだったぞ」
「え? そんなはずは」
「小屋の別の場所に保管してあります。ご希望でしたら、すぐに出しますが」
横からイングリッドが口を挟む。
「待て、一体どこに保管してある?」
エイジンがやや訝しげな表情で尋ねた。
「私の寝室の収納スペースですが、何か?」
「下着も全部か」
「はい」
しばし無言で見つめ合うエイジンとイングリッド。
何か不穏な空気を察したアランは、他に何か用がある振りをしてその場を離れた。
「悪用してないと誓えるか?」
「誓います。ですが、私がエイジン先生の衣類をどう悪用すると言うのです? 具体的に仰ってください」
「ああ、悪かった。何でもない。あんたの普段が普段なんで、ついおかしな事を考えてしまった」
「失礼な。エイジン先生がいない間、微かな残り香を堪能する位、メイドの特権でしょう」
「おい」
「今は現物があるので、大丈夫です」
そう言って、エイジンのシャツの胸の辺りを引っ張り、顔を寄せてクンクン嗅ぎ始めるイングリッド。
「やめれ」
「この匂いを嗅ぐと安心します」
「犬かあんたは」
静かな倉庫の中では、このバカップルを通り越して変態の域に達している会話もよく響き、少し離れた家電コーナーの陰で待機していたアランの耳にもはっきりと聞こえ、この純朴な青年の顔を赤く染めたのだった。