▼148▲ 膝の上からどかない猫
その後、体を起こしてベッドの端に腰掛けたエイジンの太ももの上に、その大きな胸を押し当てる様にうつ伏せに横たわって上体を預け、頭のホワイトブリムと眼鏡を外してから、
「髪が乱れない程度に、やさしく、ゆっくりと頭をなでてください」
と、改めて要求するイングリッド。
「でかい猫に膝の上に乗っかられた気分だ」
そう言いつつ、渋々要求通りにイングリッドの頭をなでてやるエイジン先生。
「ゴロゴロ」
「やかましい」
しばらくなでてから、
「もういいだろ。どけ」
と手を休めると、
「まだです」
と言って、さらになでる事を要求するイングリッド。
「もういいだろ」
「まだです」
そんなやりとりを何回か繰り返し、かれこれ十五分近くなでさせ続けた後、
「まだまだ足りませんが、今はこの位で許して差し上げましょう」
と言って、ようやく膝の上からどくのかと思いきや、今度は体を反転させて仰向けになり、後頭部をエイジン先生の太ももの上に乗せ、
「では次は膝枕を」
「おい」
全くどこうとしないイングリッド。
「やさしく頬をなでるもよし、頭を軽くぽんぽん掌で叩くもよし、自分の指を咥えさせるもよし、どさくさに紛れて胸を揉みしだ」
エイジンは無言でイングリッドの上体を、ぐい、と抱き起こし、そのままベッドから立ち上がって、この痴女メイドをお姫様抱っこの状態で持ち上げた。
「これはこれでアリですね」
そう言ってご満悦のイングリッドを抱えたまま、エイジンは広い寝室を横切って廊下に出て、イングリッド用の寝室の前まで来ると、ドアを開けて中に侵入した。
「私の部屋で、一体何をするつもりですか?」
寝室はエイジンの所より狭くベッドも一回り小さかったが、エイジンはそのベッドの所までイングリッドを運ぶと、ぽい、と放り出した。ゴミの日に出されるゴミ袋の様に。
ベッドの上で仰向けに横たわるイングリッドを見下ろしながら、
「あんたの寝床はこっちだ」
淡々と言い渡すエイジン。
「それだけですか?」
「それだけだが?」
「これから何をされるのか、と一瞬ドキドキした私の期待を返してください」
「何もしないから、安心していいぞ」
エイジンの関心は、既に部屋の隅の鏡台の前に置かれていた「なまはげの装束一式」に移っており、
「むしろ、俺の方が何をされるのかドキドキなんだが」
と言い返した。