▼147▲ メイドの逆襲
以前の小屋が守衛が寝泊まりする為の最低限の機能しかなかったものであったのに対し、今回建て直された小屋は快適な日常生活が営める様に大幅に改善されていた。
「居間とキッチンが独立してるのは前と同じか。寝室へは居間を通らずに直接行ける様になったんだな」
拉致同然に召喚されたばかりのエイジン先生も、新築の家の内部に入るとついワクワクしてしまう様子である。
「ゆとりある間取りを心掛けました。どの部屋も広くなっています。特に浴室はエイジン先生の世界のものに合わせ、大きくて深い湯船を用意致しましたので、どうぞご覧ください」
イングリッドに案内されて浴室に入ると、なるほど大人三人位は同時に入れそうな湯船が備え付けられていた。
「前のはシャワーの下に、人一人横になれる位の浅いバスタブだったからなあ。これは気持ちが良さそうだ」
エイジンがちょっと感動する。
「これだけ湯船が大きければ、二人で色々なプレイを楽しむ事が」
「さて、寝室を拝見するか」
碌でもない説明を始めたイングリッドを無視して、エイジンは浴室を後にした。
「寝室は二つあります。こちらがエイジン先生用、こちらが私用です」
「ああ、寝室を分けたのか。流石に良識を身に付けた様だな」
「ガッカリしましたか?」
「いや、大歓迎だが? 若い男女が寝室を共にする事の方が異常だろ」
「ご安心ください。寝室が二つあるのはカモフラージュです。私は今まで通り、エイジン先生のベッドで一緒に寝る予定ですので」
「いや、せっかく部屋をもらったんだから使えよ。一人でベッドを広々と使った方が、気分いいだろ」
「部屋もベッドも大きくしてありますので、二人で寝てもさほど窮屈さは感じませんよ」
イングリッドがエイジンの寝室のドアを開けると、以前の寝室の三倍は広い部屋の隅に、以前の二倍の大きさはあるベッドが、でん、と置かれていた。
呆れ顔のエイジンをよそに、イングリッドはつかつかとベッドに歩み寄って腰を下ろし、そのまま横になると、
「試してみますか?」
と言って両手をエイジンの方に広げ、「さあ来い」、とばかりに待ち構える。
それを無視してクローゼットの方に行き、扉を開けて中を確かめるエイジン。
「収納スペースも広くなっている様だな。これはいい」
「スルーされると辛いのですが」
「じゃあ最初からやるなよ」
「何もしませんから。横になるだけですから」
「ラブホに女を連れ込もうとする必死な男か、あんたは」
「そう言えば、私を騙した事については、まだ一言も謝って頂いてませんでしたね、エイジン先生」
エイジンはクローゼットの扉を閉めて、ベッドに横たわるイングリッドの方を見た。
「『騙された方が悪い』、と割り切ったんじゃなかったのか」
「それはそれ、これはこれです」
広いベッドの上でごろんと一回転して一人分の空きスペースを作り、そこをぽん、ぽん、と叩くイングリッド。
エイジンはベッドに歩み寄って、その空きスペースに腰を下ろし、
「悪かったよ。だがこちらにも都合があった事は、もう分か」
その言葉を言い終えない内に、跳ね起きたイングリッドに抱き付かれ、そのままベッドに横倒しにされた。
水中から飛び出したワニに食いつかれて引きずり込まれた水辺の生き物の様に。
さらにイングリッドは、がっちり抱き付いたままエイジンの胸に顔を埋め、
「言葉ではなく態度で示してください。とりあえず、頭をやさしく」
「叩くのか」
イングリッドの後頭部を、握った拳の底で軽くぽくぽく叩くエイジン。
「なでてください」
木魚の様に叩かれながら抗議するイングリッド。