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古武術詐欺師に騙された悪役令嬢は今日も無意味な修行に励む  作者: 真宵 駆
▽本編△ 古武術詐欺師に騙された悪役令嬢は今日も無意味な修行に励む
143/554

▼143▲ 最後に説教をかまして逃げる偉そうな詐欺師

「レンタローはこの世界に召喚されると、自分を知っている奴がいないのをいい事に、嘘で固めたしょうもない武勇伝を捏造した挙句、古武術マスターと自称し、私闘に使われると知りながら、俺達の流派の中でもかなり危険な技を、『古武術の奥義』と偽ってリリアン嬢に伝授した」


 エイジン先生は車の後部座席のドアを開けると、


「要するに金で魂を売ったんだ。だから俺はこいつの目を覚ますべく、元の世界に連れて帰ろうとしたんだが、逆ギレして、俺にその『古武術の奥義』で突っかかって来やがってな」

 

 動けないレンタローを無理矢理引きずり出し、


「だから正当防衛で、技を食らう前に同じ技を食らわしてやった。その結果がこの有様だ。今、こいつがどんなに苦しいかは、同じ技を食らった事のあるあんたならよく分かるだろう、グレタお嬢様?」


 ひょい、と背負うと、魔法陣の方へ歩いて行く。


「本意ではなかったが、結果的に俺があんたの仇を討った事になる。ま、やられた遺恨もあろうが、これでチャラにしてやってくれ」


 アランに手伝わせ、エイジンはレンタローをそっと魔法陣の上に座らせた。


「そうそう、リリアン嬢とジェームズ君には、あんたの代わりに俺が伝言しといてやったよ。『お腹の中の子に免じて、二人のした事を許してあげる。感謝しなさい』、ってな」


「何勝手な事してるの!」


 グレタが声を荒げる。


「二人は、『ありがとうございます。今日、頂いた祝辞の中で、一番嬉しい言葉でした』って、すごく感謝してたぜ」


「べ、別に感謝されたくて許した訳じゃないんだから!」


「ツンデレかよ。もういいだろ、全部丸く収まったんだから」


 エイジンは車のトランクから、一千百万円の報酬が入ったアタッシュケースと、この世界に召喚された時に身に着けていた衣服と小物、それにイングリッドに作成してもらった料理のレシピが入った大きな白い紙袋を取り出して、手に提げ、


「レシピはありがたくもらって行くぜ。あんたのおかげでこの一ヶ月、退屈しなかったよ」


 と、イングリッドに言う。


「突然の事に、何が何やらさっぱり頭が追い付かないのですが」


 昨晩までの怒りもどこへやら、混乱中のイングリッドがかろうじてそれだけ答える。


「だが武術に携わる者が、一時の私的な怒りに任せて無抵抗の人間の腕を折ろうとしたのは気に入らねえな。セルフコントロールが出来ない奴に武術をやる資格はねえってのは、基本中の基本だぜ」


 エイジン先生は真剣な顔になって、イングリッドに釘を刺した。


「は、はい、申し訳ありません」


 混乱しながらも、非を認めるイングリッド。


「暴れたきゃ練習か公式試合で暴れろ。あんたもだぜ、グレタお嬢様。軽々しく私闘に武術を使うんじゃねえ」


「な、何よ!」


 混乱しながらも、言い返すグレタ。


「あんたみたいな奴は、ハッキリ言って、正しく武術の修練に励んでいる人達の迷惑だ。それに、人に向けた理不尽な暴力はいつか自分に全部返って来るもんだぜ。危険な目に遭いたくなかったら自重しろ」


「……!」


 言い返そうとしたが、エイジン先生のいつになく真剣な目に見据えられ、言葉が出て来ないグレタ。


「古武術をきちんと学びたければ、ちゃんとした先生を探して入門しろ。ただしそういう先生は、俺みたいないい加減な奴と違って礼儀にうるさいからな。ちゃんと事前にアポ取って、失礼のない様にお願いするんだぞ。間違っても突然この世界に召喚して高飛車な態度で命令するなよ。マジで怒られるからな」


「あ、あんたみたいな失礼な男に言われたくないわ!」


「ま、そりゃそうだ」


 エイジンはいつもの飄々とした態度に戻って、荷物を地面に置き、グレタの元に歩み寄って、


「芝居とは言え、昨日は言い過ぎた。悪かったな」


 そう言って、グレタの頭に、ぽん、と右手を置いて、軽く撫でる。


「な……!」


 グレタは顔を真っ赤にしたが、特に抵抗を試みる事なく、撫でられるがままになっていた。


「いいか、セルフコントロールを忘れるなよ」


 そう言うと、思考の針が振り切れてしまったグレタをそのままにして、エイジンは再び荷物を持って魔法陣の中に入り、


「よし、アラン、こいつらが混乱してる内に早いとこやっちゃってくれ」


「は、はい。では」


 ちょっと戸惑いつつも、既に黒いローブを羽織っていたアランは、胸の前で祈る様に両の指を組み合わせて目を閉じ、


「我、大地の精に、三十日の祈りを以て命ずる――」


 何やら呪文めいた文句を小声で唱え始めると、地面に描かれた魔法陣が青白く光り出した。


「さて、これでさよならだ。二度とあんた達と会う事もないだろう。じゃあな」


 清々しい笑顔で別れを告げるエイジン先生。


「ま、待ちなさい! 待って!」


 我に返ったグレタが叫んだが、時既に遅し。


「――我、念ずるところの彼の地に、これらの物を送り給え!」


 アランが詠唱を終えると、魔法陣から放たれた青白い光がそのまま上空に円筒形に伸び、その光が消えた時、魔法陣の内側の、エイジン、レンタロー、アタッシュケース、紙袋は全て消えてなくなっていた。 


 まるで、そこに初めから何もなかったかの様に。

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