▼142▲ 何度も騙される詐欺被害者
エイジンとアランは動けないレンタローを車の後部座席に乗せ、再びガル家へと戻って来た。
敷地内に車を乗り入れ、地面に杖で描いた異世界転移用の魔法陣がある場所までやって来ると、そこには既に、無地の黒いドレス姿で不機嫌そうな表情のグレタと、いつものエプロンドレス姿で無表情なイングリッドと、黒いジャージ姿で不安そうな表情のアンヌが待っていた。
エイジンとアランが車から降りるや否や、
「遅かったわね、エイジン。とっととこの世界から出て行きなさ――」
怒り冷めやらぬ様子のグレタが言い掛けたが、
「え? 誰、その男?」
すぐに車の後部座席にいた、苦しそうな表情の男に気付く。
「レンタロー・ミフネです、お嬢様! ラッシュ家が召喚した古武術マスターが、なぜここに?」
アンヌが驚きの声を上げ、グレタ、イングリッドと共に、車の側に駆け寄って中を覗き込んだ。
「あんたが『古武術の奥義』を食らって倒された今回の件、そもそもの元凶がこの男さ。こいつがリリアン嬢に技を教えなければ、あんたがあの危険な技を食らう事もなかった」
エイジンがグレタの背後から声を掛ける。
「な、何の話よ」
「実の所、こいつは古武術マスターなんかじゃない。古武術を謳い文句にしてはいるが、その正体は既存の武術を寄せ集めてでっち上げた、インチキ古武術の流派に属していた者だ。ちなみに俺もその流派に属していて、こいつの兄弟子に当たる」
「え? だって、エイジンは『武術に関してはズブの素人だ』って」
「こいつは金に目が眩んで、私闘に使われると知りながら、かなり危険な技を『古武術の奥義』と称して、リリアン嬢に伝授した。これは俺達の流派において固く禁じられた行為でな」
「い、今になって、何なのよ!」
「俺は古武術マスターじゃないが、あの技の正体は知っていたし、使えるし、教えようと思えばあんたに教えられたが、そんな事情で教える訳にはいかなかった。ま、早い話が」
エイジン先生はおどける様に肩をすくめて、
「あんたは、もう一度俺に騙されたんだ。昨日、『あんたは、この先何度も騙される』って忠告しただろ?」
「……!」
驚きの余り絶句するグレタ。そして同じく絶句するイングリッドとアンヌ。
アランは少し離れた場所からそんな三人を、「ご愁傷様」とでも言いたげな目で見ている。
レンタローは何も言わない。