▼140▲ ヒロインの度胸
緑溢れるストラグル家の庭園で開かれている、多くの親類縁者や友人や各界からの名士で賑わう野外パーティーの中を、今はもう動かないレンタローを背負ってにこやかな笑顔で愛想を振りまきながら、一路新郎新婦の方へ向かうエイジン先生。
それはまるで、
「こいつ、めでたい席でつい呑み過ぎて酔いつぶれちゃったんですよ」
と、周囲にアピールしている様であり、それを見た出席者達も、全て了解したという笑顔で、黙ってエイジンを快く通してくれた。
続いてアランも、
「どうもすみません」
などと通してくれた人達に謝りつつ、エイジンの後からついて行き、三人はやがて、ストラグル家とラッシュ家の親類に囲まれて談笑している新郎新婦の元にたどり着く。
「まあ、一体どうなさったんです、レンタロー先生!?」
まず、純白のウェディングドレスに身を包んだ花嫁こと、リリアン・ラッシュ改めリリアン・ストラグルがエイジン達に気付き、驚きと心配の入り混じった声を掛けた。
まだあどけなさが残る可愛らしい顔立ちながらも、その瞳には一途さが伺える強い意志を秘めており、そして何より背景に豪華な花を背負わんばかりのヒロインオーラが全身から満ち溢れている。
この世界が少女漫画だとしたら、間違いなくヒロインはこの人だ。
そんなヒロインに対して、エイジン先生はレンタローを背負ったまま、
「大丈夫です。レンタローは、めでたい祝いの場の雰囲気に流されて、つい深酒をして動けなくなっているだけですから。少し休めば、すぐに回復しますよ」
爽やかな笑顔でしれっと嘘をつく。
「それならいいのですが。ええと……」
「リリアンさん、初めまして、エイジン・フナコシと言います。後にいる男はアラン・ドロップです」
「初めまして、エイジンさん、アランさん。失礼ですが、アランさんの方はどこかでお会いした事がありませんか?」
「ガル家の魔法使いのアランじゃないか! 一体ここへ何をしに来たんだ!?」
横から驚きの声を上げる、白いタキシード姿の新郎ジェームズ・ストラグル。
リリアンとお似合いの善良そうなハンサムだが、どこか善良過ぎて場の空気を読めない感じである。
案の定、その「ガル家」というキーワードが、場の空気を凍りつかせてしまった。
責任を感じたアランが蒼ざめる一方、エイジン先生は真剣な表情になり、
「ええ、私達はガル家から来た者です」
と言って、さらに場の緊張を高めた直後、
「私はこのレンタロー同様、ガル家に古武術の師範として召喚された者です。レンタローとは同門で、私の方が兄弟子に当たります」
ますます不安を煽り立てる様な事を言ってのける。
その場の人々が動揺する中で、リリアンは動じず、自分の中に宿った小さな命を守る様に、お腹に手をやりつつ、
「そのガル家の古武術の師範の方が、一体どういったご用件でしょうか?」
と、この招かれざる客に決然と尋ねた。強い。