▼139▲ 疑問と回答
狩りの獲物よろしく身動き出来なくなったレンタローを背負って野外パーティー会場の方へ向かうエイジン先生について歩きながら、
「グレタお嬢様への指導は本物だったんですか?」
と、まだ色々な疑問で頭が混乱しているアランが尋ねる。
「全部デタラメだよ。私闘に使う気満々な奴に、危険な技を教える訳には行かないんでな」
エイジンはそう答えると、背負っているレンタローの方に注意を向けさせ、
「こいつの今の状態を見りゃ、あの技がどんなに危険かって事は一目瞭然だろ」
「『相手の体に衝撃波を送りこんで内部にダメージを与える』って話は?」
「前に言った通り、格闘漫画とかから俺が適当にでっちあげた大嘘だ。実際の所は、『相手の下腹のとある場所を、とあるタイミング、とある方法で打つと、全身が麻痺してしばらく動けなくなる』ってだけの技なんだが、どうしてそうなるのかは俺も知らん。とにかくそうなるんだからしょうがない」
「じゃあ、最初にグレタお嬢様に技の再現をさせたのも?」
「技を検証する為だ。それで俺は、『間違いない。俺と同じ流派の奴が、俺より先にこの世界に来てる』って確信を得た」
「リリアン嬢を指導した古武術マスターの写真を見た時、『知らない奴だ』って言ったのも?」
「本当は知ってたが、こっちの都合上、しらばっくれさせてもらった。こいつは俺のいた道場の後輩で、こう見えても俺より年下だ」
「武術家の手にしてはヤワ、という話は?」
「グレタ嬢は知らなかった様だが、きれいな手をした武術家の話は結構聞くぜ。引き合いに出すのもおこがましいが、俺と同じ姓を持つ有名な空手の達人の手には、拳ダコ一つなかったそうだ」
エイジンは自分の右手をアランに見せながら笑った。
「真偽の程は定かじゃねえけどな。何しろ武術にまつわる噂は眉唾ものが多い。俺の在籍してた流派の道場主も、このレンタローのホラ話に輪をかけた様な、かなり怪しい奴で――」
野外パーティー会場のすぐ近くまで来たエイジンは、言葉をそこで打ち切って、
「ま、詳しい話はまた後だ。とにかく新郎新婦の所に行こう」
遠くからでもはっきりと目立つ、白いウェディングドレスと白いタキシードを着た、今日の主役の方へ近付いて行った。