表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
古武術詐欺師に騙された悪役令嬢は今日も無意味な修行に励む  作者: 真宵 駆
▽本編△ 古武術詐欺師に騙された悪役令嬢は今日も無意味な修行に励む
138/554

▼138▲ 正真正銘の古武術詐欺師

「嫌です! 俺はずっとこの世界で生きて行きます! 元の世界に帰りたいなら、船越さん一人で帰ってください!」


 レンタローは悲痛な叫び声を上げた。


「お前はカルト宗教に洗脳された信者か」


 半ば憐れむ様にツッコミを入れるエイジン先生。


「第一、元の世界に帰っても、俺は哀れな無職じゃないですか! ここにいれば何不自由なく暮らせる上、『古武術マスター』として皆から尊敬されるんです!」


「こんな狂った世界にいたら、お前、どんどんおかしくなるぞ。哀れな無職の方がまだマシだ」


「おかしいのは船越さんの方です! 何だって、あんな嫌な事しかない世界に帰るんですか! ここにずっといればいいじゃないですか!」


「そこが俺達の世界で、ここは俺達の世界じゃないからだ。三食が保証されてるからって、刑務所に一生いたいとは思わねえだろ?」


「ここは刑務所じゃなくて楽園です!」


「洗脳された奴は皆そう言うんだ。とにかく帰るぞ。どうしても嫌か?」


「どうしても嫌です!」


「じゃあ、力ずくで連れて行く」


 そう言って、エイジンは土下座しているレンタローの方に一歩踏み出した。


 レンタローは思わず飛び上がる様にして立ち上がり、怯えた表情で二、三歩後ずさりつつ、指先を下にした右の掌をエイジンの方に向けて腰の辺りで構え、


「こ、来ないでください! お願いします!」


「構えたか。面白え、やってみな」


 エイジン先生は、ニヤニヤしながら、さもおかしそうにそう言うと、ゆっくり歩いてレンタローの方に近付いて行く。


「う、うわあああああああ!」


 悲愴な決意を固めたレンタローは、悲鳴を上げながらエイジンに向かって特攻し、その腹めがけて右の掌を繰り出した。


 が、膝を曲げて姿勢を低くしたエイジンは、レンタローの掌が腹に届く前に、指先を下にした自分の右の掌でレンタローの腹を軽く突く。


「目ぇ覚ませ、レンタロー」


「がはっ!」


 その瞬間、突かれた部位から波紋が広がる様に、痺れる様な激痛がレンタローの全身に急速に広がった。


 エイジンは、痙攣して倒れそうになるレンタローを支え、そのまま、ひょい、と背負う。


 この状況が呑みこめずに絶賛混乱中のアランの方に向かい、


「さて、リリアン嬢とジェームズ君にも一言挨拶しておこう」


 と言って、パーティー会場の方へ歩き出すと、


「本当に……古武術マスターだったんですね……エイジン先生」


 訳が分からないまま一緒に歩き出したアランが、かろうじてそれだけ言う。


「『古武術マスター』じゃねえよ。『古武術を謳い文句にしてるインチキな道場に通ってた事がある』ってだけだ。最初に言った通り、俺は古武術なんか知らん。正真正銘の『古武術詐欺師』だ」


「どうして、最初に言ってくれなかったんですか!」


「言ったら、お前は哀れな無職になりたくない一心で、『どうかお嬢様に技を教えてください』、って俺に泣き付くだろ。挙句、『教えてくれなければ、元の世界に帰しません』って言われたら、俺は詰む」


 悪びれずに答えるエイジン先生。


「ま、いいじゃねえか、結果オーライだったんだから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ