▼137▲ 妖怪全部おいてけ
高そうなスーツが汚れるのも構わずひたすら土下座するレンタローと、それを止めるでもなく生温かく見守るエイジン先生。
この奇妙な光景を目の当たりにして、アランはまだ思考が追い付かずに混乱していたが、そんな事はお構いなしに二人の会話は続く。
「でも、でも! 職も金も無くて追い詰められている時に、『月に百万円出すから、古武術の奥義を教えて欲しい』って言われれば、誰だって!」
必死に訴えるレンタローに対し、
「俺は職も金も無くて追い詰められていた時、『一ヶ月で一千万円出す』、と言われても技を教えなかったが?」
あくまでも冷静に返すエイジン。
「い、一千万!?」
「いつか、『どんなに大金を積まれても、売っちゃいけないモノがある』って言ったろ」
「そんな、一千万って……」
「今いい事言ってるんだから、人の話を聞け。反省してないだろ、お前」
「し、してます。猛省してます」
「よし。私闘に使われると知りながら俺達の流派の技を金で売った事について、深く反省してるんだな?」
「はい」
「もう二度とやらない、と誓えるな?」
「誓います!」
「じゃあ、話はこれで終わりだ」
「許してもらえるんですか?」
「ああ」
「ありがとうございます! また後日改めてご挨拶に伺います!」
「それには及ばねえよ。俺はこれから元の世界に帰る所なんだ」
「そうだったんですか、残念です」
口では残念だと言いつつ、心底ほっとした表情になるレンタロー。
「何言ってんだ、ほら、帰るぞ」
「え?」
「お前も俺と一緒に帰るんだよ。もう、二度とここで教えない、って言ったろ」
「そ、そういう意味で言ったんじゃ」
「どうやら、反省してなかったみたいだな」
「反省してます! でもそれとこれとは別で」
「いいか、お前は売っちゃいけないモノを売って、この世界で色々な物を得た。だからその罪を償う為に、ここで得た物は全部ここに置いて行け。どうだ、理に適ってるだろ?」
そう言ってにっこりと笑うエイジン先生を見上げ、レンタローは見る見る内に顔面蒼白になって行った。