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古武術詐欺師に騙された悪役令嬢は今日も無意味な修行に励む  作者: 真宵 駆
▽本編△ 古武術詐欺師に騙された悪役令嬢は今日も無意味な修行に励む
135/554

▼135▲ 招かれていない迷惑な客

 翌日、例の倉庫から拝借したグレーのスーツに白シャツとブラウンのネクタイ姿のエイジンは、紺のスーツに白シャツと水色のネクタイ姿のアランの運転する、高級そうな黒塗りの角ばった車に乗って、一路ストラグル家の屋敷を目指していた。


 時刻は昼少し過ぎ、ジェームズ・ストラグルとリリアン・ラッシュの結婚式の披露パーティーが、その広大な庭園で盛大に行われている頃である。


「ガル家の敷地の外に出るのはこれが最初で最後だが、俺の世界とあまり変わらないんだな」


 アスファルトで舗装され、断続する白線で車線を区切った道路から、時には現代風の集合住宅や店舗が並ぶ街並みを、時には高層ビル街を、時には田園地帯を眺めつつ、助手席に座るエイジン先生が感想を述べる。


「そちらの世界から取得した最新技術を絶えず反映させていますから。もちろん、全ての場所がそうではなく、古風な趣の残る場所もありますよ」


 車の運転をしながら、アランが答える。


「しかしアラン君も、その格好だと魔法使いには見えないな」


「お互い様です。エイジン先生も、その格好だと哀れな無職には見えません」


「はは、お前だってもう少しでその哀れな無職になる所だったじゃねえか」


 二人して笑い合い、他愛ないお喋りをしている内に、車はストラグル家の屋敷から少し離れた所へ到着した。


「ここなら路上駐車しておいてもパーティーに来る招待客の邪魔にはならないでしょう。で、エイジン先生はこれから何をするつもりなんですか?」


 ここに至ってまだ何も詳細を知らされていなかったアランの問いに、


「ついて来れば分かる。俺が元いた世界に持ち帰りたいモノが、ここにあるはずなんだ」


 エイジンがそう答え、二人して車を降りると、ストラグル家の正門まで徒歩で向かった。


 レンガ造りの高い二つの門柱の間に大きな鉄柵の扉が解放されている正門の前で、エイジン先生は受付係の男に、


「俺はエイジン・フナコシと言う者だ。すまないが、今ここに出席しているレンタロー・ミフネという男を呼び出してくれないか」


 と、お願いする。


「失礼ですが、レンタロー先生にどのようなご用件でしょうか?」


 受付係が怪訝そうに尋ねると、


「大事な用件なので直接本人に伝える。エイジン・フナコシがここに来ていると言ってくれれば――あ、いやいい。本人があそこにいた。おーい、レンタロー!」


 エイジンは大きく手を振って、少し離れた場所を歩いていた、ダークグレーのスーツに白シャツと濃紺のネクタイ姿の、ずんぐりとしたギョロ目の男に大声で呼び掛けた。


 男は年の頃は三十過ぎ。だが、口ひげを生やしているのでかなり老けて見えている可能性もある。辺りをギロリと睨みまわし、自分の名を無遠慮に呼ぶ声の主を見つけると、偉そうな態度でのっしのっしとゆっくり近づき、側まで来て、


「今、私の名を呼んだのは君かね」


 もったいぶった威圧する様な態度でエイジンに尋ねた。


「俺だよ。お前、すっかり変わったな。最後に会ったのは五年位前か?」


 対していつもの軽いノリで答えるエイジン。


「はて、私は五年前にこの世界に知り合いなど」

「俺の顔を忘れたか?」


 エイジンの失礼な態度にムッとした表情になった男は、しかし次の瞬間、大きく目を見開き、


「ふ、船越さん! 何でここに!?」


 ひどく驚いた様に叫ぶ。


 エイジン先生はニヤリと笑い、


「お前のせいだよ。まずお前がリリアン嬢に召喚されて技を教え、その技でリリアン嬢がグレタ嬢を倒し、復讐を果たすべくグレタ嬢がその技を会得しようとして、お前と同門の俺を召喚したって訳だ。どうだ、物が順に行ってるだろ?」


「そ、それは、どうも、本当に申し訳ありませんでした」


 今までの大物ぶった態度もどこへやら、急に小物化して下手に出るレンタロー。


「しばらく会わない内に随分強くなったんだってな。聞いたぞ、お前、アフリカでインド象に勝ったんだって? それも素手で」


 エイジンの言葉に、レンタローは恥ずかしさの余り顔を真っ赤にして、


「こ、ここでは何ですから、向こうでお話しましょう。さ、どうぞ、どうぞ」


 あたふたとエイジンとアランを誘導しつつ、ポカンとした顔で見ている受付係に、


「この人達は私の知り合いだ。何も問題ない」


 と言い置いて二人を敷地内に招き入れ、追い立てる様にしてその場から去った。

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