▼132▲ その場にいない奴の有効活用法
散らばった一千万円をきっちり拾い集めてアタッシュケースに収納すると、エイジン先生は、
「さてこれで、明日アラン君の魔法で俺を元の世界に帰してもらえれば、全部終わりだ。この一ヶ月間、アンヌ共々よく俺の計画に協力してくれたな。感謝するぜ」
と、言って笑った。
「こちらこそ、ありがとうございました」
「誰が何と言おうと、エイジン先生はグレタお嬢様とアランを救ってくださった善人です」
アランとアンヌが礼を言う。
「はは、俺は悪人だよ。人を騙して平然としていられるタチの悪い詐欺師だぜ」
「そんな事は」
アンヌが反論しかけたのを制して、
「いや、俺がいなくなった後も、ずっと悪人という事にしておけ。何かの拍子に俺の話題が出ても、絶対に弁護なんかせず、『そうそう、本当にあんな悪い奴は見たことありません』とか相槌を打つんだぞ、二人共」
エイジンが釘を刺す。
二人が困惑げに顔を見合わせると、さらに続けて、
「いいんだよ、それで。どうせ俺はこの世界に二度と戻る事はないんだから、何の被害も被らん。全部その場にいない俺のせいにして、丸く収まるならそれでいいじゃねえか。こっちは痛くもかゆくもねえ」
「そうは言っても、やはり良心が咎めます」
アランがそう言うと、エイジンは笑って、
「お前さん達は真面目過ぎるよ。そこがいい所でもあるんだがな。じゃ、これは俺からのお願いだ。少女漫画に悪役令嬢が必要な様に、傷付いたグレタ嬢の心には怒りをぶつける対象が必要なんだ。ここは一つグレタ嬢を助けると思って、俺を悪人のままにしておいてくれ。これは俺にしか出来ない役でな。実際、騙して傷付けたのは俺なんだし」
二人はまた顔を見合わせていたが、ややあってアランが、
「分かりました。いささか引っ掛かりますが、その様にします」
「頼んだぞ。それと、明日この世界から持って帰る荷物の事なんだが」
「例の倉庫から何でも好きなだけ持って行ってください。台を使えばかなりの物が転移用の魔法陣に収まりますよ」
「いや、そんなに多くの荷物は持って帰らない。報酬の金と、イングリッドからもらったレシピと、ここへ召喚された時に着てた服と持ってた小物、それに例の倉庫から持って来たスーツが一着、これは明日着たまま帰るんだが、その位かな。他は全部置いて行くから、勝手に処分しておいてくれ」
「分かりました。でも、随分欲がありませんね」
「あ、それともう一つ、この世界から持ち帰りたい物があるんで、ちょっと手伝ってくれないか、アラン君?」
「何を持って帰るつもりです?」
「それは明日教えるよ。口で言うより、実物を見た方が早い」
「?」
首を傾げるアランに、エイジン先生は笑いながら、
「大丈夫、バイオテクノロジーで巨大化した人食いワニとかじゃないから」
「ガスボンベを咥えさせて、銃で撃たなきゃ仕留められませんよ。そんなの」
もしくはロケットランチャー連打。