▼13▲ 古武術に関する根本的な誤解
「ところで、グレタ嬢は『古武術』が何なのかちゃんと分かってるのか? 特に『古武術』って流派がある訳じゃなくて、古くから伝わる武術全般の呼称って認識が、俺にはあるんだけど」
衣料品と日用品で一杯になったカゴを乗せたカートを押しながら、エイジン先生は今更感のある質問を、アランに尋ねてみた。
「実はあまり分かっていない様です。リリアン嬢に敗北した時、『異世界から召喚した人に、古武術を教わった』、と言っていたのを聞いて、その後、この異世界関連の倉庫にある本を色々と調べて、『大体こんなものかしら』、と漠然としたイメージをつかまれてはいる様ですが」
そう答えてアランは、倉庫内の書籍コーナーへエイジンを案内し、
「特にこれを熱心に読んで研究しておられました」
少年漫画の単行本を一冊手に取って、それを手渡した。
「え、古武術を研究するのに、よりによって、この漫画を?」
エイジンが驚いた様に言う。
「はい、大層ハマっていらっしゃった様でして」
その漫画の表紙には、ニヒルな顔をしたマッチョな大男が、稲妻をバックに斜めに傾いて立っている。
中身をパラパラめくると、主にモヒカンな悪者達が主人公のマッチョに軽く触れられただけで、おかしな断末魔の悲鳴を上げて体が爆発するシーンのてんこ盛りであった。
エイジンは、パタン、と本を閉じ、
「アラン君。残念ながら、これは古武術じゃない。世紀末の救世主が使う一子相伝の暗殺拳だ」
「そうだったんですか。まあ名称はどうであれ、実戦で使えさえすれば構いません」
「使えるかこんなモン! 古武術より難易度高いわっ!」
エイジン先生は思わず声を荒げて突っ込みを入れた。入れざるを得なかった。