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古武術詐欺師に騙された悪役令嬢は今日も無意味な修行に励む  作者: 真宵 駆
▽本編△ 古武術詐欺師に騙された悪役令嬢は今日も無意味な修行に励む
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▼129▲ ドッキリ大成功からピコピコハンマーへの流れ

 エイジン先生はグレタに右手を握られたまま、もっともらしい口調で、


「もう俺がここにいる必要はない。後は教えた事をヒントにして、自分の力で古武術の奥義を会得するんだ、分かったな?」


 と、申し渡したが、


「駄目よ。それじゃ、奥義が会得出来たかどうか判定出来る人がいないじゃない」


 あっさりとグレタに論理の矛盾を突かれてしまった。もちろん判定とは、例のエイジンの腹を突いて悶絶させたら合格というアレである。


「では、どうあっても、元の世界には帰さないと?」


「私が奥義を会得するまでは、ずっとここにいてちょうだい」


 嬉しそうな顔でグレタがお願いする。


 下手をすると、奥義を会得する気など更々ないのかもしれないが。


「どうしてもか?」


「どうしてもよ」


「じゃあ、お芝居はここまでだ」


「?」


 キョトンとした顔になるグレタに、エイジンは満足げな笑みを浮かべ、


「いわゆるドッキリ大成功ってやつさ。あんたはこの一ヶ月間、俺に騙されてたんだよ。古武術の奥義を会得する為の修行なんて大嘘だ。あんたが大真面目にやっていた『修行』は、幼児が公園の遊具で遊んでいたのと何も変わらない」


 突然、人を揶揄する口調に変わる。


「え、それ、どういう事なの?」


 エイジン先生の豹変に戸惑いつつも、まだ状況を把握出来ていないグレタ。


「察しが悪いな。俺はここにいるあんたら四人を、今までずっと騙してたって事だ。中々の名演技だったろう?」


「エイジン、そういう冗談はあまり好きじゃないんだけど」


 グレタが少し不機嫌そうに言う。


「冗談じゃないんだな、これが。そもそも俺は古武術マスターじゃない。古武術どころか武術に関してはズブの素人だ。何かの間違いでこの世界に召喚されちまったらしい」


「そんなはずないわ。ちゃんと召喚の際に検索条件を付けたもの」


「検索ミスだよ。漠然とした三つの検索条件に俺が引っ掛かったらしいが、それで目的に合致する人間を一発で引けるとは限らない。ネットで検索する時、中々お目当ての記事が見つからない、なんて事はよくあるだろう?」


「アランは優秀な魔法使いよ。検索ミスなんてするはずないわ」


「おっと、アラン君を責めるなよ。今言った様に、検索ミスなんて決して珍しい事じゃねえし、アラン君だって俺の詐欺被害者だ。そもそも、最初に検索ミスだとはっきり言ってやればそこで済んだものを、多額の報酬欲しさに黙ったまま話を合わせたのは、この俺だぜ。アラン君なんてあんたより騙し易かった位だ。チョロいチョロい」


 そう言ってアランを指差し、嘲笑うエイジン。


 アランは目をぎゅっと瞑り、口元を引き締めて、それに耐えた。


 もちろんアランに関してエイジンの言っている事こそ嘘であり、本当は一緒になってグレタを騙す手伝いをしていたのだが、


『何があっても余計な真似はするな。俺の話に合わせろ』


 と釘を刺されている以上、何も言う事は出来ない。


 良心の呵責に耐えかねて下手に自分の罪をバラそうものなら、エイジンの足を引っ張る事になる。


「冗談なんでしょ? もう、からかうのはやめて!」


 エイジンの右手を握る両手に力を込め、グレタが懇願する。


「冗談じゃねえよ。今あんたが握っているその手が何よりの証拠さ。格闘をやってりゃ分かるだろ。こんなヤワな手が、武術家の手だと思うか?」


 それを聞いた途端、ハッとしてエイジンの右手から両手を離すグレタ。


「じゃ、じゃあ、エイジンは本当に、古武術マスターじゃなくて……」


「ああ、ただの詐欺師だ。残念だったな」


「今までの事は全部」


「真っ赤な嘘さ」


「何故、こんな事を」


「大金が欲しかった。それだけだ」


「そ、それだけの為に、今までずっと、私を騙してたの?」


「ああ、見るからにバカそうで、実際騙し易かったからな」


「ひ、人を何だと思って――」


 グレタの表情に怒気が込み上げる。 


「こんなバカ女、婚約者に逃げられるのも当然だぜ」


 その言葉が終わるか終らぬ内に、グレタの右手が目にも止まらぬ速さでエイジンのにやけた左の頬に飛び、パァン、と高く音を響かせた。


 次の瞬間、ものすごい勢いで床にブッ倒れるエイジン。すごく痛そう。


 見上げれば、グレタが怒りとそれ以上の悲しみが入り混じった表情で、エイジンを見下ろしている。


 今にも涙が溢れそうな目で、「あなたも私を裏切るのね!」、と強く訴えていた。


 その時、二人の間にイングリッドが、ずい、と割って入り、


「この私の目を欺くとは、大した詐欺師です」


 倒れたままのエイジンを、害虫でも見る様な目で見下ろした。その無表情が逆に怒りを際立たせている。


「何言ってやがる。むしろ、あんたが一番騙し易かったよ」


 それに対し、臆する事なく減らず口を叩いて嘲笑うエイジン。


「その嘲笑は甘んじて受けましょう。騙された私が悪いのです。ですが」


 イングリッドはそこで一度言葉を切り、エイジンを鋭く睨み据えてから、


「今のグレタお嬢様への暴言だけは、断じて許す事が出来ません。覚悟はいいですか、エイジン先生?」


 無慈悲な制裁の始まりを告げた。

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