▼122▲ 古武術詐欺の正念場
ベッドの中で半裸のエイジン先生と全裸のイングリッドがくんずほぐれつの後お互いの背筋に指を滑らせてのけぞらせ合ってビクンビクンという部外者にとっては激しくどうでもいいエロ話を朝っぱらから聞かされたアランは顔を赤くしつつも、
「残り今日一日しかないんですよ! そんな事やってる場合ですか!」
と、つい声を荒げてしまった。無理もない。
エイジンはそんなアランの抗議を受けて反省の色もなく、
「だから、仕掛けて来るのは向こうからだと何度も言ってるだろ。ところでその後、ストラグル家とラッシュ家に何か変わった事はあったか?」
と、呑気な口調で聞き返す。
「特にないです。両家共に結婚式の準備は万事滞りなく進んでいます」
「すると、明日の結婚式が中止になる見込みは」
「今の所、全くありません」
「いよいよもって、グレタ嬢に復讐を諦めさせるしか手はなくなった訳だ。だが、引き続きスパイとの連絡はこまめに取ってくれ」
「分かりました」
「それと、今日は後で修行場にイングリッドが来る予定だ。襲撃前にグレタ嬢の修行の成果を見ておきたいらしい」
「エイジン先生はそれを許可したんですか?」
「断る理由もない。場合によっちゃあ、古武術の奥義を全然会得出来てないご主人様を見るに見かねて、俺達の説得に協力する可能性もある」
「見込み薄だと思いますが。逆に、『頼りないグレタお嬢様の力になる為、自分も襲撃の助太刀をする』とか言い出しかねません」
「それはグレタ嬢の態度次第だな。イングリッドはご主人様に完全服従の忠犬だから。寝床の中ではやりたい放題の猫だが」
「だから、わざわざそういう事を言って想像させないでください」
同じ職場の同僚についてのその手の想像はとても気まずい。中には興奮して喜ぶ輩もいるが。
「グレタ嬢がためらっている気配を感じたら、イングリッドは無理に襲撃を後押ししないよ。犬はご主人様の顔色をよく読むもんだ」
「今日一日で、グレタお嬢様を説得出来るという勝算はありますか?」
心配そうに尋ねるアランに、エイジン先生は、
「『出来るか』じゃねえよ、『やる』んだよ」
と、笑って答えた。