▼12▲ 異世界産地直送の品揃え
「この倉庫には、異世界から取り寄せた様々な品が置いてあります。必要な物があれば、どうぞご自由にお使いください」
敷地の外れに建っている大きくてシンプルなかまぼこ形の倉庫に、エイジン先生を案内したアランが言う。
中に入って電気を点けると、そこには広いスペースに所狭しと品物が積まれ、あたかも量販店の内部のごとき様相を呈しており、
「何この劇的な安売りの殿堂」
とエイジンも目を丸くする。
「異世界から召喚した方の為に用意してある品物です。こちらの世界にある物だけでは、都合が悪い事も多々ありますので」
「俺だけでなく、過去に召喚した人間が他にもいるのか?」
「ええ、主に科学技術関係です」
「魔法がある世界にしては、携帯もあるし、随分こっちの世界と技術レベルで遜色ないなと思ったら、そういう事か」
「魔法は魔法でしか出来ない事の為に使われるのが一般的です。言い忘れましたが、エイジン先生には、こちらの世界の言語を自動的に使いこなせる魔法を、既に掛けてあります」
「ああ、それは流石に気付いてた。でもその内、それも機械化されるかもしれないな。最近の翻訳ソフトの精度はかなり上がって来てるから」
「それ位ならいいのですが、もし異世界転移の魔法が科学技術で可能になったら、私などはお払い箱です」
アランは少し寂しげな目をして言う。
「大丈夫、それはない。さて、じゃあ、お言葉に甘えて、物色させてもらうとしよう」
品物が高く積み上げられた隙間を縫う様に、スーパーで使う様な買い物かごを乗せたカートを押しながら、エイジンはあちこちを見て回り、必要だと思った物を手当たり次第にかっさらって行く。
「普段着は作務衣にしよう。ちゃんとした和服の方が古武術っぽいかもしれないが、動きにくいんだよな」
濃紺の作務衣を手に取り、体の前で合わせて姿見を覗きこむエイジン。
「スーツも一式手元に用意しておくか。多分使う事はないだろうけど、念の為。普通の服も何着かあった方がいいかな。下着とタオルと靴下は多めに」
「エイジン先生、もし必要になったら、その都度ここから持ち出して構いませんから。今、一度に持ち帰らなくても大丈夫ですよ」
「調味料と食器と調理器具は小屋に用意してあるのかな。それに入浴用品、シェーバー、歯ブラシ……」
アランの言う事も耳に入らず、一人暮らしを始める前の準備の買い物の際にありがちなワクワク感が止まらない様子のエイジン先生だった。