▼118▲ 女っ誑しを見る目
修行場に向かう途中、昨晩から今朝にかけてエイジンとイングリッドがベッドの中で代わる代わる相手の胸に直接耳を当ててお互いの心音を確かめ合うというそこだけ聞くとバカップル死すべしと呪いたくなる様なエロ話を聞きたくもないのに聞かされたアランは、顔を赤くしつつ、
「そんな事より、襲撃予定日まで後二日しかないんですが、エイジン先生」
とやや悲しげに、切羽詰まった現状を訴えた。
「ああ。だがその二日間でグレタ嬢に襲撃を断念させて、俺が元の世界に帰れたとしても、イングリッドとはさらに一ヶ月も一緒にいる事になるからな。このままだといよいよ俺の貞操が危ないかもしれん」
「いえ、そういう事ではなくて」
エイジンの貞操など心底どうでもいいアラン。
「まさか、作務衣の上衣を突破して来るとは思わなかった。下衣に手を掛けるのも時間の問題だ」
「それ以前に、グレタお嬢様の方を心配してください」
「もちろんそっちも心配してるさ。ただ、こういう事はグレタ嬢本人だけでなく、そこに関わっている人や、取り巻く環境も十分考慮してかかる必要がある。イングリッドの動向もその一つだ」
「イングリッドがエイジン先生に夜這いを掛けている事と、グレタお嬢様を説得する事との間に何か関係が?」
ある訳ない、と言いたげな表情でアランが尋ねる。
「今やイングリッドは俺の詐欺計画についてグレタ嬢同様、何も疑っていないって事だ。この確認が取れているだけでも、詐欺計画の遂行は随分楽になる」
「まあ、それはそうですが」
「一つ屋根の下で同居している人間を警戒しなくてもいい、ってのは大きいぜ。出来れば共犯に引きずり込みたかったんだが」
「毎晩イングリッドを誑し込んでいるのは、そんな邪な目的があっての事だったんですか」
「誑し込んでねえよ。向こうから勝手にもぐり込んで抱き付いて来るんだ。仮に俺がイングリッドを誑し込んだとしても、グレタ嬢との主従の絆は強いから飼い主、もといご主人様を騙す計画に加担させる事はまず無理だ」
「発想が女っ誑しの外道ですね」
「だから誑し込んでねえっての。ともかく、グレタ嬢本人の意思の他に、色々な要素を考慮して詐欺計画を進める必要があるって話さ。アラン君も今後時時刻刻と変化する状況に気を付けてくれ」
「イングリッドの気持ちも、少しは考えてあげてください」
「人の話はちゃんと聞こうね、アラン君」
真面目な奴はこれだから、と言いたげな表情になるエイジン先生。