▼116▲ 痴女メイドの一日婦警
自分に害が及ばずとも雇い主の身を心配する人の好いアランと別れ、小屋に戻って来たエイジンを、
「おかえりなさいませ、エイジン先生」
と、婦人警官のコスプレをしたイングリッドが、直立不動で敬礼しつつ出迎えた。
「ただいま。何も悪い事をしていなくても、その姿で出迎えられると一瞬ドキッとするな」
思わず渋面になるエイジン先生。
「おや? 喜んで頂けるかと思ったのですが、意外な反応ですね」
「あんたの中で俺は一体どういう性癖の持ち主なんだよ」
「着衣エロ派に加えて制服フェチの気が多分にあるのではないかと」
「ねえよ」
「真面目な職業の制服であればある程、それを脱がす時の背徳感も大きいですよね」
「俺に訳の分からない同意を求めるな」
「さ、どうぞ、お好きな様に脱がせてみてください」
両腕を広げ、ずい、と胸を張るイングリッドをスルーして、無言で寝室に向かうエイジン。
イングリッドはめげずにその後からついて行き、寝室に一緒に入ると、
「なるほど、脱がすのではなく、婦警さんの目の前で脱ぐ方がお好みでしたか」
「言っている事の意味が全く分からないんだが、ともかく俺は着替えるから出て行ってくれ」
「お望み通り、この姿で見ててあげますから、きりきり脱いでください。全裸になったら後ろの穴に何か隠していないか確かめ」
「出てけ」
エロ婦警を追い出し、作務衣に着替えたエイジンが寝室を出てキッチンに赴くと、テーブルの上に出前用の岡持ちが置いてある。
まだ婦警の格好をしたままのイングリッドが、岡持ちの蓋をスライドさせて中から丼を取り出し、
「そんな訳で、今日の夕食はカツ丼です」
「あんた、それをやりたいが為だけに、ここまで準備したのか」
呆れつつもテーブルに着き、美味そうにカツ丼を食べ始めたエイジンに対し、
「さ、吐け。今まで何人の女を騙した?」
「お前が釣竿を使って軒先に干してある女物の下着を釣り上げる名人だって事は分かってるんだ」
「いい加減白状しろ。同居しているメイドさんに本当はあんな事やこんな事をしたいと日々妄想していると」
安っぽい刑事コント風にしょうもない事をしつこく問い質すイングリッド。
それら全てをスルーして、エイジンは一言だけ、
「分かってると思うが、俺の世界で取り調べにカツ丼が出るってのは都市伝説だからな」
と、言い返した。