▼110▲ 心配症になれない人達
「物語的に『ざまぁ』に至る運命を変える事が出来ない、ってのがこの世界のルールなら、そのルールを逆手に取ってやるまでさ」
そんな中二病全開のセリフを臆面もなく口にするエイジン先生に、残り時間が少なくなった事もあって、不安と動揺を隠せないアラン。
そんな心配性のアランと別れて小屋に戻ったエイジンは、
「おかえりなさいませ、エイジン先生」
光沢を帯びた青い生地に銀の梅花の模様を散りばめた、裾が長くスリットが深い派手なチャイナドレス姿のイングリッドに出迎えられた。
「ただいま。今日の夕食は中華か。分かり易いな」
「この気合の入った衣装を前にして、感想はたったそれだけですか、エイジン先生」
「似合ってるよ。あんたは無駄にスタイルがいいからな。ただ、メイドとしてその格好はいかがなものかと思う」
「お褒めに与り光栄です」
「微妙に褒めてないから」
「ちなみに下着は着けていません。確かめてみますか?」
「スリットを開くな。着けようと着けまいとどっちでもいい」
「このギリギリ見えそうで見えない『はいてない』感が、何とも言えないセクシーさを醸し出すのです」
「今、スリットを開き過ぎて一瞬中身が丸出しになったぞ。確かに何とも言えない気分になるな。残念な意味で」
「と言いつつ、しっかりその中身を目に焼き付けましたね」
「もう毎晩見慣れてるわ。色仕掛けがしたかったらむしろ隠せ。それ以前に裸を軽々しく晒すな」
「つまり、エイジン先生は着衣エロ派なのですね」
「本当に、あんたは黙ってりゃ美人なんだが」
「お褒めに与り光栄です」
「だから微妙に褒めてないから」
一通りエイジンに構ってもらえて満足した様子のイングリッドは、いつものエプロンドレスに着替え、酢豚とフカヒレスープと小龍包をテーブルに用意する。
「あのチャイナドレスは、着衣エロ大好きっ子のエイジン先生の今晩のお楽しみ用に取っておくという事で」
「ここはいつからそういうお店になったんだよ」
「着るのはエイジン先生ですが」
「あんたは俺を何だと思ってるんだ」
心配症とは全く縁のないくだらない会話を続けながら夕食を取る二人だった。