▼109▲ ファイナルな到着地
その日の修行も無事終了し、振り子の巨大丸太を掌で打つと同時に体をかわす動作がより素早くなったグレタに、
「基本動作はよくなった。が、古武術の奥義の会得にはまだまだ遠い」
と、エイジン先生がもっともらしい口調で言い渡す。
「大丈夫よ。四日後のバカップル狩りまでには、きっちり会得して見せるから」
それに対し、爽やかな笑顔で碌でもない犯行予告を口にするグレタ。
「復讐など諦め、時間を掛けて修行すべきだと言っているのだ」
「復讐の為にわざわざエイジンをこの世界に召喚して、一ヶ月も指導してもらってるのよ。その努力を無駄には出来ないわ」
「俺の事はどうでもいい。自分にとって何が最善なのか、残された時間の中でよく考え直す事だ」
そう言って修行場を後にしたエイジンに、
「残り四日。四日目が襲撃予定日ですから、実質残り三日で、果たしてグレタお嬢様が考え直してくださるでしょうか」
文末に、「いや、ない」、と付け加えて反語にしたそうな問いを発するアラン。
「このままだと難しいかもしれないな。責任転嫁する訳じゃないが、どんなに最善を尽くした計画を立てた所で、この世界はグレタ嬢が『ざまぁ』な目に遭う様に出来ている気がして来た。物語的に」
「物語?」
「この世界が一篇の物語なら、主役はリリアン嬢で悪役はグレタ嬢だ。悪役がこっぴどい目に遭わなければ、物語のバランスがおかしくなるだろう」
「運命論ですか」
「もしここでグレタ嬢の洗脳、もとい説得に成功して返り討ちを回避出来ても、この世界はバランスを取ろうとして、別の『ざまぁ』な目に遭わせるんじゃないか、ってな」
「何かホラー映画の様なお話で正直ついていけないのですが、仮にそうだとしたら、エイジン先生のこれまでの努力が無意味になりませんか?」
「なる。この世界に召喚された当初から何となく引っ掛かっていたんだが、計画の終盤に来て、いよいよその予感が強くなって来た。『この世界は物語であり、運命を変える事は出来ない』と。はは、大丈夫。別に突発的に中二病をこじらせた訳じゃないから、安心しろ」
「本当に大丈夫ですか。疲れてませんか、エイジン先生?」
突然、突拍子もない事を大真面目に言い出すエイジンを、アランは色々な意味で心配そうに見つめていた。