▼105▲ 重い掛け布団
「待て、そもそも異世界転移って、一介のメイドが観光旅行程度で使っていいものなのか。一回の転移に三十日の準備が要る程の魔法なんだろ?」
イングリッドに突拍子もない事を言われたエイジンは、この全裸で添い寝しているメイドの方に体を向け、声を荒げた。
「普通は使えません。ですが、エイジン先生がお帰りになるついでに、私も一緒に行かせて頂くという形なので、問題ありません」
布団の隙間から露わな胸が見えているのを気にする様子もなく、そのまましれっと答えるイングリッド。
「俺以外の人間も、同時に転移出来るのか」
「基本的に魔法陣の内側に収まれば、何でも一緒に転移出来ます。垂直方向の制限はありません」
「ぎゅうぎゅうに詰めれば十人でもいっぺんに転移出来るって事だな」
「高い足場を組めば、百人乗っても大丈夫です」
「どこぞの物置かよ」
「今回は元々エイジン先生だけを転移する予定でしたので、かなりスペースに余裕がありますから、私一人位増えても何の支障もありません」
「だが、帰る時は?」
「エイジン先生の世界には、持ち帰る価値のあるものが色々とありますから、帰る日時と場所を決めておいて、それらの品物と一緒にこちらへ呼び戻してもらうのです」
「小惑星の砂を持ち帰る人工衛星みたいだな」
「そんな訳で、そちらの世界に滞在中、エイジン先生の所に置いて頂けませんか? もちろん宿泊費は払います。体で」
「誤解を招く言い方はやめろ。家事労働で払うと言え」
「冗談です。現金で払いますのでご安心ください。それとも体の方が良かったですか? 性的な意味で」
「それ以前に、俺の所に泊まる事はもう確定なのか。でも金があるんだったら、ちゃんとしたホテルに泊まった方が快適だと思うんだが。家事もしなくていいし。それ位の給料はもらってるんだろ」
「やはり枕が変わるとよく眠れないので」
「俺はあんたの枕じゃないし、それはそういう具体的な意味で使う慣用句じゃない」
「使い慣れた抱き枕さえあれば、旅先でも安眠出来そうです」
そう言ってイングリッドはエイジンに抱き付き、目を閉じた。全裸で。
剥がそうとすればする程、イングリッドは体を密着させて執拗に絡み付き、最後はエイジンの上によじ登って、掛け布団の様に覆い被さる始末である。全裸で。
筋肉質なので結構重い。