▼104▲ 有給休暇の無駄遣い
「今日の夕食はチーズフォンデュです。熱い内にどうぞ」
ボンデージ衣装からいつものエプロンドレス姿に着替えたイングリッドが、エイジンに言う。
二人は、テーブルの上に置かれた卓上コンロで、取っ手付きのホーロー鍋に溶かしたチーズフォンデュに、小さく切ったバゲットや茹でた野菜やソーセージなどを浸しながら食べ、
「最後は、鍋の内側をきれいにバゲットで拭き取るといいんだよな」
エイジン先生が聞くと、
「そうして頂くと後片付けが楽です。何でしたら、直接鍋を舐めてきれいにしてくださっても構いません」
イングリッドが真顔で答える。
「いい大人なのに、今、『ちょっとやってみたい』、と思った自分が情けない。アイスの蓋の裏じゃないんだから」
「舐める時は、床に這いつくばって犬の様に」
「まだ引っ張るか、そのネタ」
いつもの様にくだらない事を言い合いつつ夕食を終え、ジョギングに出てからシャワーを浴びると、もう就寝時間である。
「今晩からまた全裸で復帰します」
「しなくていい」
照明をナイトランプに切り替えるや、抗議を無視して今まで着ていた服を全て脱ぎ、エイジンのベッドにごく自然にもぐり込んで、そのすぐ隣に横付けになるイングリッド。
「エイジン先生も、全裸になってみてはいかがですか。洗ったシーツを直接肌で感じるのは、中々気持ちがいいものですよ」
「取り込んだ洗濯物の上で寝る猫か。どうしてもやりたいのなら、自分の布団でやってくれ」
「さて、今夜大いに語り合うテーマですが」
「無視か」
「『エイジン先生が元の世界に帰った後の、私の予定について』、です」
「ああ、確か一ヶ月間無休で俺の世話をしてくれた分、まとめて休みがもらえるんだったな」
「はい。結局、旅行に行くことに決めました」
「計画通りなら、俺が帰るのは五日後だから、もうすぐだ。ま、働き詰めだった分、のんびり休んでくれ」
「そう言って頂けると、ありがたい限りです」
「帰ったらあんたと二度と会う事もないだろうが、元気でな」
「いえ、エイジン先生の所に泊めて頂こうかと思っていたのですが」
「何?」
「バカンスは、エイジン先生の世界で過ごす事に決めました」
異世界からメイドがストーキングしにやって来る。