▼103▲ お笑い番組におけるSM嬢の役割
「軽く、短く、瞬時に。外部から力で破壊するのではなく、内部に鋭い振動を与える事をイメージして打て。後はただ修練あるのみだ」
最後にそんなもっともらしい事をグレタに言い渡して、その日の修行を終えたエイジンは、修行場から少し離れた所まで来ると、
「分かってると思うが、全部嘘だからな。真に受けるなよ」
と、その同じ口で、すぐアランに種明かしをしてみせる。
「分かっています。妙に説得力があるので、時々信じてしまいそうになりますが」
複雑な表情で答えるアラン。
「自分が詐欺に加担してる事を自覚してないと、何かあった時に適切な反応が出来なくなるからな。熱湯風呂に突き落とされるお笑い芸人が、ぬるま湯が入っていると知っているからこそ、いいリアクションが出来るのと同じだ」
「すみません、時々エイジン先生の言っている事がよく分からなくなります」
先程とは違った意味で複雑な表情になるアラン。
そんなお笑いに疎いアランと別れて小屋に戻ったエイジンは、
「おかえりなさいませ、エイジン先生」
と、布地面積の少ない黒革ボンデージのコルセットに編み上げロングブーツ姿でバラ鞭を手にしたイングリッドに出迎えられる。
「ただいま。あんたは罰ゲームでお笑い芸人をシバくSM嬢か」
「意外とエイジン先生はこちらの趣味がおありかと思いまして」
「お笑い番組の演出として眺める分にはアリだが、自分が巻き込まれるのは御免だ」
「せっかくこうして苦労して衣装を着こんだのですから、そこに四つん這いになってください。大丈夫、痛くしませんから」
「人の話を聞け」
「一応今日で終わりましたので、この手の際どい衣装も着られる様になった訳です」
「そういう話は聞かせなくていいから」
「夕食は床に直に置くので、犬の様に這いつくばってお召し上がりください」
「食い物で遊ぶと流石に怒るぞ」
お笑いに理解があり過ぎるのも問題だった。