▼10▲ 復讐の意味
「では、今日はここまでだ。修行は明日の早朝から始める」
キャットファイトの再現という、ややマニアックなジャンルの動画撮影を終えたエイジン先生が、そう言い渡すと、
「は? 時間がないのよ。今すぐ始めてちょうだい」
グレタがイライラした口調で抗議した。
「とにかく、今日はもう終わりだ。後は休むなり、アンヌと通常のトレーニングをするなり、好きにすればいい」
「明日、具体的にはどんな修行をするつもり?」
「明日になれば分かる」
いかにも古武術マスターっぽく、弟子の言う事に耳を貸さず、あくまでもマイペースに事を運ぶエイジン。
その上、不満げな顔をしているグレタに向かい、偉そうな調子で、
「修行を始める前に、一ついい教訓を教えてやる。『復讐はバカの自己満足に過ぎない』」
と煽る始末。
グレタは一瞬激しい怒気を露わにしたが、何とか落ち着きを取り戻し、「ふん」、と相手をバカにする様に軽く笑い、
「復讐の為なら、バカで結構よ」
と言い返した。
その後、アンヌと通常のトレーニングを始めたグレタを残し、エイジンとアランは稽古場を後にする。
「冷や冷やし通しでした。あまり過度に挑発するのは控えた方がいいと思います」
屋敷内に用意された客室へ案内する途中、アランが心配そうに言うと、エイジンは平然とした口調で、
「逆だよ。こういう場合、下手に出た方が却って怪しまれる。どこまでも偉そうな態度で、いかにもその道の大家っぽく見せかけといた方がいい」
「そういうものですか」
「言葉の合間に、それっぽい教訓を挟むのも有効だ。さっきの、『復讐はバカの自己満足に過ぎない』、とかな」
「それはそれで、いい教訓だと思いますが」
「俺が一から考えた訳じゃない。有名な映画に出て来るセリフを、ちょいと改造しただけだ」
「何の映画です?」
「詐欺師の映画」
「いい教訓が台無しですね」
はぁ、とため息をつくアラン。
「でも、いい映画なんだぜ。俺は特に、列車内で行われるイカサマポーカーのシーンが大好きでね、そこだけ百回以上は繰り返し見たかな」
「随分と、研究熱心な事で」
頼もしいやら呆れるやらで、複雑な心境のアランだった。