ビジター
3 完全情報現実ホムンクルス ビジター Ⅱ
・・・何か。忘れたはずの夢を見ていた気がした。
だが、意識が覚醒していくにつれてそんな感覚すら遠のいていく。窓から日が差し込んでいる。日差しは少し狭い部屋を暖めていた。ベットの隣には引き出しの上に白い花がいくつか。一応の応接用机が一つと椅子二却。そしてユニットバスの部屋が一つ。
ゆっくりと体をベットから引きはがす。眠気はないがそれでも心地よさが恋しくて体を再び倒しそうだった。
「ようやくお目覚めみたいね。と言ってもその顔はまだまだ眠たそうね。」
唐突に声がした。やれやれと、白い短めのドレスのような服に身を包んだ、短い黒髪の少女。部屋の扉を開けて少女が入ってきた。
名前はそういば知らない。ただ彼女は俺の監視役だとずっと俺のことを見張っている。それこそここに来た時からずっとである。
「さ、体の調子はどうかしら?もしどこか痛みがあるなら今のうちに言って。あなたもビジターの一人になったのだから、この先戦うことになるのよ。そもそもあなたはその辺わかっているのかしら?」
いや、問題ない。自分が戦う運命にあるのはわかっている。わかってはいるが、やはりまだ実感がわかない。それこそ出来れば、この現実のほうが遠のいてほしい現実だったのかもしれない。
「頭では判っている。けど実感はわかないって顔ね。あんたの顔は。」
「どんな顔ですか。」
そういう顔だと少女は言った。それでも彼女は仕方がないと彼女はベッドに椅子を寄せて座った。
「さて、貴方の監視役の私としては、貴方にもう少し実感を持ってもらいたいのだけれど、何から話したほうがいいのか。まずはビジターから説明したほうがいいのかしら?」
「いや、それについては問題ない。ビジターというと大雑把に言えば自分たちのことを示す名詞のことだろう?」
「ま、貴方にとってはその程度の認識よね。むしろ安心したわ。今日は時間があるみたいだからね。折角だしその辺の話をしましょうか。」
お願いしますと、とれは彼女に頼んだ。
「まずビジターというのが私たちを示しているっていうのは正しいわ。貴方や私、この施設にいるすべての人がビジターという括りにカウントされるの。でも貴方も分かっていると思うけど本来私たちはそう呼ばれるべきではないのよ。元々私たちを示すべき名詞は人間のはずよ。」
そう、人間だ。霊長類の一種。言の葉で会話を紡ぎ、リアクションをもってコミュニケーションをとる。社会の中で生きる者だ。しかし今は全く違う意味、来訪者として括り付けされている。ここにきてから何故そう呼ばれているかは少し疑問に思ったことがあった。
「括られている理由は一つ。それは私たちが一つ前の世代の人間たちと、根本的に成り立ちの違うところがあるから。それは私たちの生まれ方にある。最初のビジターは人間にこう呼ばれたと聞いたことがあるの、データホムンクルス。それが私たちの根源。」
データホムンクルス・・・?情報、人造人間?初めて聞くのと、意味の不可解さから思わず首を傾げた。だが彼女がそう言うということは、自分もそういった認識のされ方をしているらしい。それにしても、データホムンクルスとは一体?
「情報人造人間。貴方もそんな感じのイメージが浮かんでいると思うけど、それは私も同じ考え方よ。かつてこの世界では、プログラムされた情報を、元々現実世界にあった物を一切使わずに、情報だけで顕現、世界に上書きする技術に辿り着いたの。そうね。最初は指先に乗ってしまうほどの小さな鉄の塊。次に掌サイズの鉄。そして食べ物。そして・・・知性体。」
一瞬。背中に寒気が走り抜けた。彼女は知性体と言った。恐らくパソコンといった機械の中で設計された生命を、その設計図という情報だけで生み出したということ。そして知性体。それに行き着いたということはつまり。
「あら、思っていたよりは察しがいいのね。そうよ、正解よ。私達は人間という情報の設計図から生まれた、情報の人造人間。データホムンクルスよ。」




