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4.突きつけられし真実

 何かがおかしい。

 そう思わずにはいられなかった。

 さっきの谷藤さんの言葉が脳裏をちらつく。

 今まで気にならなかったはずの事象が、次々浮かんでは、思考に絡みついて剥がれない。


「……みんな、どうしてこうも非協力的なんだ?」


 塚田も、こがねも、谷藤さんも。いつものように接したはずなのに、気がつけば誰からも協力を受けていない。

 まさか俺がラノベ主人公になることを潔く思っていないのか?

 実は彼女たちこそが黒幕で、俺が物語に介入することを拒んでいる、とか?

 でもそれにしては当たりがキツすぎるような……。


「……いや」


 さすがに考えすぎか。

 それより今は、自分のとるべき行動を考察しなければ。


「しっかし、他に当てなんかあるかぁ?」


 同じ剣の道を歩んだ仲間にアドバイスをもらおうとして、失敗。

 オカルトの力で超常現象を引き起こそうとするも、説得段階で失敗。

 ヒロインキャラにストーリー展開を任せようとするも、やはり失敗。

 それ以外にも、ラノベっぽい行動ならこの三年間でほとんどやりつくした。

 今さら一人でできることなど、あるのだろうか?


 気分を変えて校庭に出てみたものの、正直行く当てはない。

 ぼんやりと校舎の壁に背を預けて、考える。


 と、そのとき、


「……もう全員帰ったか?」

「ええ。少なくとも、この近くに生徒達はいませんよ」


 奇妙な会話が耳に入り、意識を傾ける。


 ……そういえば、この壁は職員室に面していたっけか。

 何やら中で教師二人が会話しているようだが、どうも生徒の存在を警戒している様子。

 教師が生徒に聞かれちゃマズい話題なんて、可能性はかなり絞られるけど。



「…………まさか!」


 俺はこのとき、ある仮説を思い立った。


 そもそも、俺はラノベ展開へのトリガーを三年間探っていたが、()()()()()()を調べたことはほとんどなかった。

 すなわちこの学校の秘密である。

 それも七不思議みたいなもんじゃなく、学校の存在そのものに関わるレベルの。

 この学校自体が秘密結社の隠れ蓑だとか、来たるべき魔法戦争に備えた要塞だとか、考えればいくらでも可能性は出てくる。

 実はこの校舎は巨大魔法陣を隠すように建てられていて……、なんて設定はよくある話だ。


「どうして今まで気がつかなかったんだ……!」


 以前生徒会に何度か接触したことはあったが、彼らはこの学校を牛耳っている黒幕には見えなかった。

 だが学校の裏話に精通する人間は、ここにこそいるじゃないか!


「……教師の会話を盗み聞きすれば」


 あるいは何か秘密を握れるかもしれない。


 俺は壁にぴったりと張りつくと、職員室の窓をそっと数センチだけ開けた。

 窓の隙間から、聞き覚えのある声が鮮明に漏れる。



「かぁー……終わった終わったぁ」

「お疲れですね、乾先生」

「あぁー疲れたよ。特にこの三年間はほんっとーに疲れた。ガキみてーな問題児がいたせいでな!」


 どうやら話しているのは、俺のクラス担任だった(いぬい)先生。

 それと二年生担当の門川(かどかわ)先生だ。


「いいんですかそんなこと言って? 今のご時世、教師としての言動は慎まないと」

「教師だって人間だ。愚痴の一つや二つくらい、吐かなきゃ潰れちまうよ」

「……ごもっともですね。僕でよければ、話聞きますよ」


 こっそり中を覗くと、門川先生がドアの鍵を閉めるのが見えた。

 その間に乾先生はタバコを取り出そうとして、やめる。職員室が禁煙だと思い出したのか、大きく舌打ち。

 理由は分からないけど、相当ストレスが溜まっているようだ。


「準備オーケーです。……それで、何があったんですか?」

「何がもクソもあるか。朱夏だよ。三年間ずっと奴の担任になったが、あんな狂った生徒は他に見たことがねえ」

「ハハ、いきなりエンジン全開ですねぇ。お疲れ様です」


「(…………え? 俺?)」


 思わぬところで自分が話題に上がり、ちょっとびっくりする。

 まさか担任様に目をつけられていたとは……。

 でも考え様によっては、これは大きな情報だ。


 なぜならさっきの仮説に従えば、先生に目をつけられる(イコール)俺が学校の秘密に近い存在ということになるからだ。

 俺は学校そのものを疑ったことはないが、どこか潜んでいるはずの秘密組織などを常に探し続けていた。

 そんな俺が、秘密を隠蔽したがる教師達に危険視されてたってことは……それ自体が学校の秘密の存在証明に他ならない!


 こりゃ凄いこと聞いちまった……! わくわくが止まらねえ!


「生徒たちの間でも有名ですよね。関わっちゃいけないヤバい奴、って感じで」

「そういや門川先生は今年度からの赴任だったな。担当の学年も違うから、奴との接点もなかったようで。……幸運なこった」

「そんなに問題児なんですか?」

「ああ。一応アレでも一年の序盤まではマトモな奴だったんだがな。まだ素性を知られてなかったから、友人すらいたらしい。しかし……忘れもしねえ、その年の6月を境に、奴の周りから人がいなくなった」

「6月に何があったんですか?」


 興味ありげな態度で話を促す門川先生。

 それに乾先生は、盛大なため息とともに応える。



「屋上に吊った幼女の死体を落としては拾うという奇行を人目も無視して数時間続けたんだ」

「……………………は?」



 ……うん? ちょっと待ってナニソレ? 身に覚えはあるけど、そんな認識されてたなんて知らないぞ。


 それって多分、俺が「空から降ってきた女の子を受け止める」というシチュエーションに備えて人形で練習していたときの話だよな?

 確かにあの後、軽く警察沙汰になったっぽいけど……どうしてそんな根も葉もない噂にすり替わるんだ?


「警察に通報しても証拠の死体は一切出てこないし、朱夏本人は否認している。捜査は途中で打ち切られたんだ。でも噂はすぐに校内に広まった」

「そりゃそうでしょう……。それじゃまるで狂人じゃないですか」

「仰るとおり。だが奴の異常性はそれだけじゃない。その後も学校を爆破しようとしたり、校庭に謎の幾何学模様をデカデカと描いてサバトを行ったり」

「い、一体どういう意図で……?」


 もちろん、自分で考えたオリジナルのラノベ導入シーンを実践するためである。

 なんせライトノベル第一巻では斬新な切り口からの導入を求められるのが常だ。

 学校嫌いの主人公が学校を爆破しようとしたら美少女に止められて、とか。そんな作品あってもおかしくないし、面白そうじゃない?


 あ、でも止められること前提で動いてたってことは、本当に破壊する気はなかったわけで。……まだまだ本気度が足りなかったのかな? その辺りが失敗に終わった原因かもしれない。


「あーそうそう、転校生を自ら作りだしたこともあったな。あんときゃさすがの俺もたまげたわ」

「転校生を、作りだした……?」

「ああ、文字通り、作ったんだよ奴は。うちの学区内に一つ工場があるだろ?」

「ええありますね、食品会社の」

「奴はそこの会社の幹部に接触したり売り上げを操作したりして、うちの学区内への転勤者を増やしたらしい。……嘘みてえな話だろ? でもやりやがったんだよ、あのバカは!」


 あー、あったあった。懐かしいな。

 あのときは本気で美少女の転校生がほしくて、株とか経営学の勉強をバカみたいにしてたっけ。

 今じゃすっかり忘れちゃったけど。


「しかもそれで転校してきた奴――男だったが、そいつに対し朱夏は第一声、「美少女になれ!」と性転換および女装を強要したんだ。クラス全員で阻止しなけりゃどうなってたことか」


 もしかして当時クラスの皆は「性転換よりも男の娘にするべきだ!」と主張したかったのだろうか。

 あの頃の俺は美少女に固執しすぎていたせいで諦めてしまったが……。しまった、なんてもったいないことを!


「小学生の女の子が校舎に迷いこんだときにも、彼は真っ先に嗅ぎつけたそうですね。監禁したなんて噂も立ちましたが」

「今年の7月のアレな。奴の噂にしちゃあ、あんなの茶飯事だよ」


 学校に幼女が迷いこんだとあればそれはもう物語に絡まない道理がない。

 幼女のいないラノベなど、猫のいない猫カフェと同義ッ!(自論)

 いやさすがに監禁はしてないけど。


「今日だって、知り合いでもない女子生徒に一緒に魔界の扉を開こうって迫ったり、告白中の生徒に向けて爆弾を投げたりしたそうだ。さっき生徒から苦情があったよ」

「え……? それもう奇行ってレベルじゃないですよね?」

「幸いケガ人は出なかったようだがな。……最後の最後まで手の焼ける野郎だぜ、ったく」


 話すだけでぐったりと疲れた様子の乾先生。それに門川先生は苦笑する。


 職員室には二人以外にも先生はいたが、皆黙って仕事を進めていた。

 乾先生を止めるものはいない。

 というか「今日くらいは目を瞑ってあげよう」って感じで黙認している雰囲気がある。


 それにしても、聞けば聞くほど俺の噂が耳に入ってくる。どうやらよほど先生方に目をつけられていたみたいだ。

 てことは学校の秘密の真相にたどり着くのも時間の問題ってことだな!

 待ってろよラノベ展開! 熱いバトルと、()()()()との絆の物語、見せつけてやる!

 アハハハハハハハハハハハハハハ!

 アハハ、ハハ……。






 …………。

 ……………………。






 ダメだ。

 そろそろ限界だ。






 これまで鈍感系主人公を演じようと、ずっとずっと目を背けてきたが。

 本当は薄々……いや、もっと前から、ハッキリ分かっていたんだ。


 俺の行動は誰にも理解されてない。

 俺の仲間なんて一人もいやしないんだ、って。


 だけど、自分の夢を実現するには、必要な代償なんだって、自分に言い聞かせて。

 絵空事みたいな願望のために、青春すべてを賭けて、どんな無茶でも全力で、がむしゃらに努力して。

 そのたびに周囲から信用を失って、人が離れていって、結局夢も叶わなくて。

 気がつけば……手元には何も残っていない。


 一体いつからだろうか。

 他人を思っての行動、そのすべてが裏目に出るようになったのは。

 いくらバカな行動をしても、みんな呆れ顔をしても、最後は全員笑顔になれるって信じてた。

 だってラノベの世界では、どんなバカやっても最後はみんな笑ってる作品ばかりだったから。


 俺だって、わざと周りに迷惑かけようだなんて思ってない。

 だけど、ラノベに憧れて行動すること、それ自体が迷惑だったのなら。

 ………………じゃあ俺はどうすればよかったんだよ。





「アイツはガキだよ。現実を見ず、無謀な夢に酔狂するバカなガキだ。ライトノベルの主人公なんて幻想にとらわれて、現実社会で破滅した救いようのないクズさ」


 分かってるさ。

 そんなこと、俺が一番知ってんだよ。

 無謀だと分かってて、でも目指した。それが俺の人生で唯一、本気になれる夢だったから。

 

 ……なあ、誰か教えてくれよ。

 バカな夢を本気で追うことって、友達を失わなきゃいけないほどの大罪なのか?

 本気になれる夢に、本気でぶつかって、一体何がいけなかったんだよ!

 

「また、ずいぶんと辛辣ですね」

「事実だからな。でも、そんなガキのお守りも今日で終いだ。卒業してくれて、ホントせいせいするぜ!」

「……お疲れ様です、乾先生」


 俺は、これ以上彼らの会話に絶えられなくなって、

 静かにその場を去ることしか、できなかった。

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