15.精霊喰い討伐、グングニルの気持ち
今回は結構視点がかわります。
―槍は夢を見ていた。
様々な使い手がいたがどんな者であっても最初の使い手である老人よりも長く扱えたものはいなかった。
―槍は知っていた。
部族のために仕方無く闘った男も、闘争を求めて散った男も、騙されて最期には世界の害悪とされて始末された少女も、皆この槍を都合のよいものとしてし扱っていないと
―槍は嬉しかった。
数百年ぶりの使い手は槍を使うのに相応しい人物だった。皆特性を理解せずにただの槍として振るう者ばかりの中で.、最初の老人以来初めての正しい使い方をして貰えた。
―槍は怖かった。
ゲイボルグが目の前に現れたとき。手放されるんじゃないかと。
今の使い手が潜む敵に気付けず最終的には危険へと陥りそうなとき。このまま殺られるんじゃないかと。
レーヴァテインの存在を感じ取ったとき。そして、レーヴァテインが使い手へと自分を売り込みにとやって来たとき。
そしていま、使い手が天敵に捕まり喰らわれてしまいそうなとき。
―槍は考えた。
このままではこの使い手は死んでしまう。だけど再び正しい使い方をしてくれる使い手に出逢えるまでどれだけの年月が掛かることかわからない。
それに、この使い手は共にいて中々愉しい。
―槍は気がついた。
今の使い手は永久を生きれる程の寿命を持つ。契約は同じ種類の霊でなければ複数行える特異体質なのも確認済みだ。そしてまだ付喪神と契約していないのも確認済みだ。
―槍は悔しかった。
そもそも今の使い手はグングニルを使う頻度が少ない。他にも一撃技があるからなのだが、それでも悔しさはあった。
―槍は信じることにした。
最初の老人の時とは違うだろうと。結局最後にはこの槍を捨てるなどという事はしないであろうと。
―槍はずっと気がついていた。
壊れるその瞬間まで共に戦う戦友を求めていたのだと。しかし神に創られし槍はそう簡単に壊れる事はなかった。故に常に使い手の方が没してしまう。
―けれども今度の使い手は違う―
「大丈夫。主は守る。また一人で永い時を過ごすのはもう嫌。主とは短い付き合いでも楽しかった、酷く愉しかったから。遺跡を探索していたあの頃、無双出来た数少ない機会。レイドラとか言うのとの闘いの時はここぞと二度だししたのにNGされて相手にアドをあげたこと。ドクターの時稲妻ではなくグングニルを使っていたらどうなったのかと夜布団の中で真面目に考察を始めたこと。その全てが楽しかった。」
「えっと、話が超展開過ぎてついていけないのですが、要は私がグングニルと契約をすべきということですか?」
突然過ぎます。精霊喰いとやらはまぁ、現時点でかなり動き辛いですし理解はしましょう。
付喪神がグングニルについて居たというのも、今までさんざん勝手に出てきた辺りから想像はつきます。
「え、もしかして囚われの姫がルーで私が王子様?」
「ならば白馬の馬役をやりましょう。ただ、王子様も序盤の雑魚にやられるレベルに弱体化してますが」
淡々と答えられても困るんですよね…。
正直こうやって考えるのも辛いんですよね、実は。
私の直感では目の前のグングニルは私を騙して云々というつもりはないと思います。
……駄目です考えるのも本当に辛い、直感を信じます。
「……契約を」
※※※
セレナさんが沈んでいった。誰も反応できなかったけどそもそもセレナさんが沈むのは想定外過ぎた。
だってあの人常に浮いてるんだもん。
「そういえばアーディアちゃん。リカちゃん一緒じゃなかったけどどうしたのー?」
「知らない。いつの間にか消えていて。あの子の主同様ワープで好き勝手移動出来るから勝手に帰ったのかと思って私も此方へと来たんですー。」
いつの間にか具現化しているクリスタとアーディアが横にいた。
「これは精霊のみを引き摺り寄せる空間でー、マライアちゃんとナックル君は私達の契約者だからここに来たとしてー、セレナちゃんが沈んでいったのは本人が精霊の力を持っているからだとして、でも精霊としての力は使えないとか言ってたから…、」
「つまりどういうことだ?」
ぶつぶつ自分の世界へと籠ってしまいそうなクリスタにナックル君が上手く引き戻してくれた。
「リカちゃん行方不明。セレナちゃん行動不可及び囚われ。リカちゃんも場合によっては囚われ。援軍不可の状態をこの面子で乗り切るしかない。」
「最大戦力が弱体化して囚われとかふざけすぎてるだろ」
「原因はリカちゃんさんが不在だったってこと?」
「でしょうねー。でなければセレナちゃんだけ居なくなるという事はないでしょうし。」
「問題はこの面子でどうするかだな。救出か自分達の生存か、どちらを第一優先にするか」
うーん。と考える事になります。救出したいのはやまやまなんだけどこの面子、アーディアさん以外は火力面で不安がある。ナックル君は実力よくわからないしなぁ。
どうするべきか…?
※※※
身体が軽くなる。契約したグングニルが中和してくれているのでしょう。これで自由にこの場所を動き回れるという事です。
『Spirit Contractant』の設定である霊との契約、姫鶴一文字という刀が契約できたのですから同じ付喪神であるグングニルも契約できて当然でした。
とりあえずマライアちゃん達も気になりますが、まずはルーを救出するのが先決です。
とは言え私の技って大半が私の魔力依存なんですよね。つまりは精霊の力扱いされるらしくて。
サラマンダーもクリスタルランサーも発動してもすぐに消えてしまいます。これでは戦力外でしょうか。
「主、契約執行してみるといい。闇精霊とは違い既に構成は決まっているけど主にとっては念願のはずだから」
「契約執行グングニル!」
迷わず契約執行をします。ぶっつけ本番ですがもうこの際ですからグングニルの言うことを最後まで聞こうと思います。
自分の姿がかわるのを感じます。
目の前に先程の炎を纏った剣レーヴァテインが現れました。なんで?
「話はついてるので。グングニル契約執行の時のみその剣は主の力となるようにと。さぁ、力の限り振るって、このまま降り下ろせば道は切り開ける。」
そこまで聞けば後は必要ありません。レーヴァテインを握ると魔力を吸われる感覚が気持ち悪い。今日は魔力を使いすぎな気がするなぁ…。
私の魔力を吸い、レーヴァテインどんどんと大きくなり、そして、
※※※
「いっけえええぇぇぇーーー!!!」
叫び声と共に放たれた光の剣閃が不可視の壁を貫き破壊する。一人の女性が破壊された壁から飛び出し中央へと肉薄する。
その女性の姿は赤黒い炎を纏ったその身ほどの大剣を振るい、頭の上には控えめな王冠が乗っていて赤いマントに白を基調とし赤の線が入ったノースリーブの服を着た格好である。
女性が突撃をした中央。そこには醜悪な外見を晒し精霊の力を吸いとるかのように喰らっていく精霊喰いの姿があった。
精霊喰いの回りには数多の精霊が力なく積み重ねられており、その内の一人が闇の精霊ルーデリカであることを確認すると、女性の持つ大剣がさらに熱量を増してゆく。
「全く、契約してすぐこんな戦いだなんて。主、気を抜かないでね?」
「当然!このまま奴を葬ります!」
〈グングニルの契約執行中にワタクシを使うとか最高!!面白すぎて火力上がっちゃいますわぁ〉
中央へと大剣から凄まじき熱量の籠った剣の波動が放たれる。その波動は見るものの視線を釘付けにするような独特の美しき軌跡を描き、斬撃と化して敵へと襲いかかった。
精霊喰いの長所ともいわれる部分に精霊と対峙した時点でその力を奪えるという点がある。
だが、目の前の女性は精霊であるが為にこの場所へと連れてこられ、付喪神であるグングニルと契約を結び、太古より伝わりし神具であるレーヴァテインの力をもって精霊喰いを滅ぼさんとしている。
大剣から放たれし斬撃が精霊喰いを一気に飲み込みその存在を消し飛ばした。
女性によって精霊喰いは滅ぼされた。後に残るは精霊喰いの残したこの場所のみ、それももうすぐ消えるであろう。
私も消滅に巻き込まれる前にこの場所から去るべきであろう。たまたま辿り着いた場所で思わぬ程良いものが見れたも―――
〈ああ、甘いですわ甘甘、とっても激甘過ぎて砂糖がなくても100年は生けれそう。あ、ワタクシ食べる事は出来ぬのでしたわ、くふふふふ!〉
―――――――――――――――――――此方へと飛んできた斬撃によって傷が増えてしまった。ここはどこであろうか。また現世へと戻るのが遅くなりそうだ。我が友は果たして待っていてくれるだろうか、それだけが心配だ。
※※※
無事にルーを助けることに成功しました。何故先に契約したルーよりも後から契約したグングニルの方が先に活躍をしているのかわかりませんが。
ああ、出会ったのはグングニルの方が先ですから間違っている訳ではないんですよね。
「主、元の場所へと戻ります。この無闇に斬撃を飛ばすアホ剣と共に主の中へと戻っていますから。では、」
グングニルがレーヴァテインを抱えて私の中へと戻っていきました。
ぐったりとしたルーを背負ったまま元のオークション会場へと戻ります。
戻った私達へと待っていたのは周りから一斉に仲間が消えた為に一人で残されたアルカと、ある程度事情に思い当たる節がありアルカと共に待っていてくれたマスターシェンロンでした。
説明をするのに夢中になり、結局本来の目的を果たすことが出来なかったのは内緒です。
なお、ルーはアーディアとは違う入り口から入ったら精霊喰いと遭遇してしまったようです。
とりあえず色々と起こり魔力を使いすぎたこともあって疲れました。おやすみなさい。