11.氷山での出会い、精霊と契約者と放浪じじい
「『LS』を撃つことが出来ない?」
ルーが大きなお皿に大盛に注いで貰ったカレーを食べながら聞き返してくる。その黒くドロドロゴツゴツしたカレーはお金のない地上民の貧困層が食す所謂闇鍋のカレー版のようなもので、量の割に値段が凄く安いのがウリな商品。
ルーは混沌とした味と真に美味しいものが好みとのことでこの混沌としているカレーを嬉々として食べているのです。私はごく普通のオムライスです。
あ、私がお金を持ってない訳ではありませんよ?ミカンから使いすぎないようにと旅するのに必要な分を貰っていますし、天空都市ならどこでも使えるカードも貰っていますから。
そもそも人が空へと住処を替えたのは、自然温暖化とパンドラの箱を開けてしまったことによる魔術やらなにやらが世界へと広がり、地図の7割は海となっているからだとか。
オーストラリアに位置するであろうこの区域はテニスが流行っているらしく人類が空へと住処を替えても未だに多くの人が残っている区域でもあります。
因みにテニスランドとかいう名前にかわっています。
ここ以外で栄えているといってもいい地上の場所は、東京より北に位置する再び生活環境が江戸時代へと戻った『大和』、東京より南に位置する現代よりも文明を発達させた『ジパング』、フランスの位置に存在する大型の地上都市『超フランス』、暖かくなってしまい住みやすくなった北極の海に浮かぶ海上都市『楽園』等くらいしか知りません。
と、それましたが地上は海ばかりのため安全で土壌がしっかりとしている土地が少ないんです。そのためカレーの具も色々ときな臭いものばかりでして…。
「そうです。技表にも無くて出しようがないのですが…。」
うーん、と頭を捻るルー。
「わからないことは聞いてみるに限ります。主様、精霊ネットワークで聞いて参りますわ。」
ルーの姿が闇に溶ける。
地上では原則お残し禁止。
残されるカレー。
黒くて、ドロドロしてて、ごつごつな。
………………………私が食べるの?
※※※
「人の身体の状態とかを『視る』のが得意な氷の精霊の契約者が氷山フェンリルに要るみたいよ主様。………何故そんなプスプスと煙が身体から出ているの?」
「なんかカレー食べたらお腹の調子が悪くなって、しかも、身体の調子も悪くなって来る気がしてしょうがなかったから、縮小したサラマンダーを飲み込んで焼き尽くしました…。」
「……………………………私は主様の事が時々解らなくなります。」
※※※
氷山フェンリル。あの狼であるフェンリルが暴れまわった時に大勢で討伐し、その際にできた山らしい。フェンリルの墓場というダンジョンもあるらしいですし。
私は契約執行状態の『闇ワープ』を使いその氷山フェンリルへとやって来ました。この状態ならかなりの長距離も移動できて素晴らしいです。
契約執行状態を解除して、ルーと少し歩くと一つの小屋が見えてきました。
小屋の前には一つの人影が。
頭髪は後頭部を残して禿げ上がり光を反射して眩しい。顔中に白い髭を生やしていて。 背中に踊っているデフォルメされた虎の絵が書いてある胴着を着て、雪駄を履いている。
矢鱈と存在感がある男、ジング。
彼はレイドラ、ザゴンの師匠であり、『天牙爆裂拳』や『タイガーボンバー』の発案者でもある方です。
公式ではついぞプレイヤーキャラとしては出てこなかったものの、設定はかなり作り込まれておりファンの間では放浪じじいと親しまれていたキャラですが、そのお陰で外見を見ただけでこの人がジングだとわかりました。
「レイドラもまだまだじゃのう。確かにスペックは悪くないが技術が足りんだろう、お主。」
一目見ただけで見抜く辺りは流石は若き頃は最強と呼ばれただけのことはあるのでしょう。
今は若い頃と比べれば弱体化してるとはいえ侮ってはならない人物であろう。
「成程ねー。確かにリカちゃんが好きそう。美人さんでスペック高い、そして闇の適正がある、さらにはアーディアも狙ってた。これで虐めっ子のアーディアに意趣返し出来るじゃないかー。」
「クリスタ?主様の前で虐められていたとか言わないで」
短い水色の髪、冷たい印象がある吊り目、着物に白地に雪だるまの模様が入った着物、下駄をはいている真っ白い肌をした少女がルーに話しかける。
下駄と雪駄履くの逆にすれば良いと思うんですがね…。
というか虐められていたんですかルー。まぁ高飛車な気はあるのでしょうかまさか虐められるほどとは
「あ、アーディア来るって。なんでも凄く気のあった契約者見つけたとかで」
よし、ルーの敵討ちとしてその契約者とやらをぶちのめしましょう。
「LS撃てないのは単に技術が足りてないから。それと、精霊契約を二つしている影響?」
クリスタとその契約者である顔を隠してある少女が私とルーの事を『視て』くれました。どうやら私が原因で、まだまだ弱いということです。
「しばらくここで修行していくとよいです。ジングがいるから修行相手には事欠かないはずですし。」
「まあよかろ。レイドラを倒したようだしな、後で一戦やってお主の適正を確かめるぞ。」
顔を隠した美しいソプラノな女の子とジングさんに修行を勧められて、私はこの山で修行をすることにしました。
あ、ドクターには連絡をしてこの山に来てもらうことに。
彼もジングさん会えると聞いてなんか叫び声あげてましたし。
「ところで、リカちゃんはどうやってこんなに優良物件を見つけたの?」
「たまたま適正有りの雰囲気を近くに感じたから接触したら大当たりでした。」
「私達みたいなものなんだねー、私とマライアちゃんの出会いはー」
「何度も聞いてる。山にぶっ刺さった間抜けなクリスタをひろってくれたんでしょ?」
「そうだよー。そしてその娘が適性あってしかも呪術にたけてる娘だったからねー」
「まぁお互いラッキーではあると、だってあなたのところも不死とはいかなくても長寿ではあるんでしょ?」
「マライアちゃんは魔女の一族だからねー。」
精霊達が楽しげに雑談している。
アーディアとやら達が来るのは再来月との事なのでそれまでに強さを五段階位あげておこうと思います。
クリスタと契約している顔を隠した娘が近寄ってきました。
マライア、と呼ばれているこの娘には高い魔力が渦巻いている。私よりは少ないが、今を生きる人のなかでは破格なものでしょう。
「私は、クリスタと契約しなければ魔力を暴発させて死んでいる筈でした。」
なんか突然暴露話かなにかが始まりました。隣にジング爺も寄ってきましたし、なにか重要そうな話です。
「クリスタとの契約で、クリスタが回りに氷河結界を張ることで私の魔力を強制的に使い、暴発を防いでくれているのです。」
結界か…。確かに魔力を感じ取れます。この山に張られた結界の魔力とやらが。
「ですが、私は外に出てみたい…。幼い頃は幼いからという理由でも納得できました。今は氷河結界のせいで外へは出られません。」
「へ?私は入ってこれましたが?」
「お主はワープで来ただろう?あれならば場所指定をする分嬢ちゃんの結界には引っ掛からんよ。」
成程。そもそも人が入って来れないようにするタイプの結界だったとは。
すっかり獣避けの結界とかかと思ってました。
「結界を張るのは私のが魔力が暴発してしまうため。そして暴発するのを他に止める方法が、私には魔法を行使する知識がないためなのです。」
「さっき呪術使いとか言ってませんでした?」
「嬢ちゃんは呪力を使う呪術使いなのに、魔力を多く持って生まれてしまったのだ」
魔力と呪力と別れているのですか。これは初耳です。もしかして私にもあるのでしょうか?ちょっと集中してみましょう。
……………あ、ありました。結構保有量多いですね私。流石にマライアちゃんよりは少ないですが60%位はあります。
「私は、自身の結界によって外の世界を一度も見たことがありません。このまま永遠を過ごすのは理解はできても、納得はできません!」
立ち上がり、涙を浮かべながら彼女は私に言いました。
「だから!私に、魔法を教えてください!!!」
「別に良いですよ?私も呪術に興味有りますし。」
「闇の精霊と契約しておるからのぅ」
今の話を聞いて断れるほど悪い人間ではありませんよ。人間かどうかは怪しいけど。
「良かったです。これからよろしくお願いします!」
良いお辞儀ですね。と、一つ言っておきましょうか。
「ただ、私と話すときは敬語やめてください。それが条件です。」
「はい!」
良い笑顔ですね。と、隣でニマニマしている爺にも一つ言っておきましょうか。
「何故『虎砲』『天牙爆裂拳』『鷹狩』ときて『タイガーボンバー』なんですか?」
「漢字の名前に飽きてのう。ワシの出身地である大和では漢字が主流じゃったから最初は漢字にしていたがさすがに百を超えた辺りから飽きはじめてのぅ。」
……………レイドラ、貴方はこんな師匠のために動揺して敗北したのですね。涙を誘います。
因みに闘技会の試合は本選以降は空に浮かぶ映写機によって地上の人も見れる様になっているそうで、私の勇姿(笑)をしっかりと観ていたそうです。
だから彼女の中では私の評価は凄く高かったということなんだそうです。
なんか、恥ずかしいです。
「不味いカレーを食べきってお腹を壊して自爆した身としては虐められててもしょうがないかもしれない」
「主様!?」




